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今月飲むのを我慢して買った本

単行本を持っているのにあとがき目的で購入した、
酒見賢一さんの『墨攻』文庫版は、関連書に手を伸ばしそうになる。

明屋書店新田原店(福岡)加来智美さん

 お酒を飲むと、少量でもふんわりと気持ちよくなり眠くなってしまいます。節約と睡眠防止という二重の意味で、本を買ったら飲むのは我慢です。

 待ちに待った森見登美彦さんの新刊『有頂天家族 二代目の帰朝』。愛すべき毛玉(狸)たちの物語です。下鴨家の毛深き家族愛は前作のまま、師弟愛、恋愛、同朋愛……様々な愛と、天狗界、狸界、人間界を跨いでの様々な陰謀が交錯します。交錯の果てには、前作を超える感動が待っています。本当に、面白きことは良きことなり!

 愛しい毛玉たちの前途に「偽電気ブラン」で乾杯したいところですが、手に入らないのでコーヒーで我慢します。

 美しい表紙に惹かれて購入した一冊。勝山海百合さん『月ノ森の真弓子』。風そよぐ草原、静かな部屋、いつもの道……そんな場所で目に見えない何かがいるような気がしたことはありませんか? そんなものたちが時にふわりとあらわれる、日常の中に異界が溶け込んでいるような、「月ノ森」と呼ばれる東北のとある場所が舞台です。飲むとご利益があるといわれている「命迦泉」の番を始めた10歳の真弓子と叔父の駿矢。それぞれに心に傷を負った二人が、様々な人や、人にあらざるものに出会って、一歩前へ踏み出せるようになるまでが語られます。近未来という設定なのに、どこか懐かしい感じがする物語です。

 単行本を持っているのにあとがき目的で購入した、酒見賢一さんの『墨攻』文庫版。舞台は古代中国。墨家集団の革離という守禦のスペシャリストが、圧倒的不利な状況で城を守る物語です。とにかく革離がかっこいい。内に熱を秘めながらもクールでストイックなところに惹かれます。

 博愛主義にして戦闘集団という矛盾した性質を持つようにみえる墨家。戦闘能力は弱小国を強国から守るためにのみ使われました。戦国時代に大勢力を誇ったものの、秦の時代に忽然と姿を消します。そんな謎多きところも興味深く、うっかり関連書に手を伸ばしそうになっています。

 かくして読書の誘惑は止まらず、今年は酒抜きのお花見になりそうです。

当店の売れ行き30位前後にいる小説

連城三紀彦さんの花を題材にした短編集『戻り川心中』は、しとやかな美しさがあり、どの作品も気品ある香気を放つ。

紀伊國屋書店丸亀店(香川)大石麻未さん

 五感を研ぎすまし、鋭い野生の勘で棚作りをしている私は日頃ほとんどランキングを見ません。そんな私がこのお題をいただき、ぺぺっと脳内データを弾き出し、それだけだとただの妄想30位前後になってしまうので、仕方なくパソコンでポチリとデータを検証した結果、30位前後の作品には3パターンほどあるのではないかと思い至りました。

 一、特に何もしていないが売れ続け一等地の片隅に君臨し続ける作品。

 二、店員の作品に対する愛が爆発、愛情たっぷりのポップとともに目立つ位置に置かれた作品。

 三、この土地を舞台にしているがゆえに売れている作品。

 今回は当店のそんな売れ行き作品をご紹介いたします。

 最初は宮部みゆきさんの『荒神』。

 発売から根強く売れ続け、メインの棚の座をキープしています。清々しい青を基調に描かれた表紙に魅せられてページをめくると、一転、緊迫したシーンでの幕開け。その衝撃に一気に心を鷲掴みにされます。そして読み終わって、最初とはまた違ったイメージを放つ表紙に感服です。

 続いては連城三紀彦さんの『戻り川心中』。

 昨年、次々と遺作が刊行された頃、当店の某さんはいそいそと連城さんコーナーを作製。「おすすめは?」と聞くと「そりゃ、『戻り川心中』。本当にいい。お願いだから読んでくれ!」とおすすめされ、読んで大いに納得しました。花を題材にした短編集で、しとやかな美しさがあり、どの作品も気品ある香気を放っています。とくに表題作は、鮮やかなトリック、情景の描写がすばらしく、読後、しばし余韻に浸りました。こんな作品に出合えると心からうれしくなってたくさんの人におすすめしてしまうのは仕方ありません。

 最後は山下貴光さんの『うどんの時間』。よく丸亀店ってどこ? と聞かれるのですが、このタイトルでおわかりのはず。そう、うどん県こと香川、丸亀でございます。山下さんは丸亀ご当地作家で、作品の中にも地元の人なら誰でも知っている場所がたくさん出てきます。最近は県外からのお客さんまでがこの本片手にうどん屋で列をつくっているとかいないとか。

私はこの本を1日1冊1すすめ

門井慶喜さんの『東京帝大叡古教授』は、文系の天才が難事件を解決するミステリーで、歴史好きには二度おいしい作品。

MARUZEN名古屋栄店(愛知)竹腰香里さん

 到来! 心機一転、何か学びたくなる季節がやってきました。今回は、著者の博識の高さが作品に色濃く投影され、読後に作中に登場する本を実際に読みたくなったり、実在する人物を調べたくなってしまう作品を選んでみました。

 まず、北村薫さんの“円紫さんと私”シリーズ第6弾『太宰治の辞書』、実に17年ぶりの新作です。待ちわびていた人も、今作が初めての人も楽しめる作品です。

 編集者の“私”が、作家の創作の謎に出合い、落語家の「円紫さん」の言葉に触れ、“私”の推理は確信に変わっていきます。主人公とともに本の探索の旅へ向かう、本好きにはたまらない謎解きが待っています。実在の出版社、作家、書物が惜しみなく登場し、まるで宝箱のようでした。紙の本の味わい深さと愛おしさが募りました。

 次に、四元康祐さんの『偽詩人の世にも奇妙な栄光』。中原中也の詩に衝撃を受け、詩の世界にのめり込んだ主人公が、才能の無さを自覚し、詩人ではない道を選びますが……。主人公の博識の深さが招いてしまった悲劇を、詩人である著者がエンターテインメント性たっぷりに描いています。ラストの主人公の姿は、切ないながらも胸をうちます。

 作品を通して、ことばの世界の奥深さに感銘を受けました。好きな詩人を探しに、書棚を巡りたくなります。

 最後に紹介する作品は、門井慶喜さんの『東京帝大叡古教授』。理系の天才が登場するミステリーは数あれど、今作は文系の天才が登場し難事件を次々と解決する! という前代未聞の作品です。その名も「うのべえーこ」という、かの天才哲学者と似た名前の法学博士。実在の人物が作中に次々と登場し、夏目漱石がまさかの殺人容疑者に! 歴史好きには二度おいしい作品です。

 そして、ラストで明かされる主人公・阿蘇藤太くんの正体に驚愕! 読み終わった後、気になって詳しく調べた私です。

 叡古教授の知識の深さが冴え渡り、事件を解決する姿はかっこいいです。そして、「人が学ぶのは自分でものを考えるためだ」という教授の台詞にぐっときました。学べば学ぶほど人は成長する。学ぶことの大切さを再確認しました。

 

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