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今月飲むのを我慢して買った本

理知的なヒロインが魅力的なアン・ペリーの『護りと裏切り』は、特に女性にお薦めしたい芳醇なミステリ小説。

TSUTAYA練馬春日町店(東京)石川かおりさん

 飲み会よりも読書を選びたい! 読み出したら最後、一歩も外に出たくなくなるほど没頭できる、とっておきの三作をご紹介致します。

 イチオシはスティーヴン・キングの最新邦訳作『11/22/63』。印象的な題名はケネディ大統領暗殺の日を示しています。普通の教師だった主人公ジェイクは、この歴史的事件を阻止すべく、約五十年前の世界へ戻ることに。時間旅行にはいくつかのルールがあり、タイムトンネル、通称“兎の穴”の先は、常に一九五八年九月十九日正午二分前の同じ場所に繋がって、行くたびに前回の旅はリセットされます。

 Xデーまでの五年間を過去で暮らすことになる主人公は、出会いと別れを重ね、過去の人々に感情移入していきます。人種差別や家庭内暴力をはじめ、襲いかかる困難にもめげずに誰かを救いたいと立ち向かう姿に、胸と目頭が熱くなってたまりません。手に汗握る冒険と落涙必至の物語を更に彩るのは、日々の暮らしや食べ物などの細かく豊かな描写で、一文一文が魅力たっぷり。千ページ超なのに読書中は「永遠に読み終わりたくない!」と願わずにはいられなくなり、日頃の憂ささえ頭から消えてしまう。本書自身があちらの世界へ読者を誘う・兎の穴・なのです。

 次はローラン・ビネHHhH』。第二次世界大戦下、チェコ人とスロバキア人のレジスタンスは、大虐殺の発案者ナチス軍人ハイドリヒの暗殺を試みた。実際の事件にまつわるノンフィクションの体裁をとりつつ、読者に「小説とは何か」と問題を投げかけ、未知の読書体験を与えてくれます。たとえ読者には結果がわかっていても、狂気じみた冷徹さを持つ非道な男ハイドリヒに抵抗する者たちを、応援せずにはいられません。この独特の寂寥感が本書を一層輝かせます。

 最後はアン・ペリー護りと裏切り』。元警官モンクのシリーズ作品ですが、本書から読んでも何ら支障はありません。一九世紀ロンドンのある屋敷で、主人である将軍が階段から落ち、真下にあった銅像の槍に胸を貫かれて絶命、妻が自首する。しかし事件には更なる秘密が隠されていた。自供に疑問を抱き、容疑者を救おうと裁判の日まで奔走する理知的なヒロイン、ヘスターが魅力的です。特に女性にお薦めしたい芳醇なミステリ小説です。

当店の売れ行き30位前後にいる小説

小路幸也さんの『娘の結婚』を読んで、家族同士のずっと支え続けていたお互いの思いやりや、優しさに涙した。

ジュンク堂書店三宮駅前店(兵庫)池畑郁子さん

 群ようこさんの作品は私にとって、久しぶりに会った幼馴染の打ち明け話のような身近さが感じられる小説です。さて、『れんげ荘』のキョウコさんの場合はどうでしょうか。

 45歳にして仕事を辞め、実家を出て築40年以上のアパートでの一人暮らしを始め、生活費はそれまでの貯金から。なんと無茶なと思いつつも、実家に居て母親に愚痴を言われ続け、職場では同僚たちに悩まされ、精神的に疲弊し、全てをリセットしたくなる気持ちは理解できます。まだまだ健康で、やりたいことだけをやればいい時間……とはいえ、母親の愚痴が治まった訳でもなく、住んでいるアパートはボロボロ、強烈な湿気、虫、寒さと、不安な要素ばかり。そういう不安を差し引いても、心のどこかで私がキョウコさんを羨ましく思うのは、精神的な自由を得て自分にとって何が必要で、何が要らないものなのかを見極め、改めて自分を作りなおしているからでしょう。

 小路幸也さんの『娘の結婚』は、早くに妻を亡くし、一人で娘を育ててきた父親が主人公です。娘の結婚相手がかつて住んでいたマンションの隣人で、その母親は、自分の亡くなった妻とは「折り合い」が悪かったと聞かされていた人。親としては娘の義理の母親となるその人が、娘の幸せの妨げになりはしないかと心配になるのは当然です。何気ない一言や態度でも、受け手の気持ち一つで好意にも悪意にも取られてしまったりするのは、嫁姑に限らずご近所でも職場でも起こり得ること。この物語で私は、家族同士のずっと支え続けていたもの、お互いを思いやり、黙って庇ってきたその優しさに涙しました。

 これから結婚する娘さんや息子さん、そのお父さんお母さん全ての人に読んでいただきたい物語です。

 もう一つの父と娘の物語、藤野恵美さんの『ハルさん』も、娘の結婚式の日で幕を開けます。ハルさんの不器用で優しい子育ての様子が、幼児期、学童期、思春期……と綴られていきます。時折起こる謎や悩み事は、亡き妻瑠璃子さんに助けられながら解決。

 娘を一生懸命守っている姿、そしてその娘に支えてもらっているからこそやってこられたと感じさせて、とても幸せな気持ちになる物語です。

私はこの本を1日1冊1すすめ

壁井ユカコさんの一生懸命応援系小説『2・43清陰高校男子バレー部』は、スポ魂小説だけじゃないのが良い。

フタバ図書GIGA上安店(広島)新竹明子さん

 自分の感覚を信じてお客様におススメするならこの1冊を。

 まずは村山早紀さんの『コンビニたそがれ堂 空の童話』。本当に欲しいものがある人だけが辿り着ける不思議なコンビニで、様々な人たちがそれぞれの想いをこめてコンビニを訪れるオムニバス形式の物語。

 お店はお稲荷様のすぐそばで、店員はキツネ目のイケメン店員。ピンとくる人はお稲荷様だと気付くはず。その通り! お狐様に化かされているだけかもしれません。それでも化かされた人には救いになるのです。過去のシリーズの登場人物がちらちらと顔出ししているのがファンにはたまりません。毎話ホロリとさせられる物語で、ちょっと心が疲れた貴方におススメのアロマ系小説。

 続きましては、知野みさきさんの『妖国の剣士』。想いを交わすという意味が切々と胸に響くファンタジー系時代小説。過去の過ちから、弟を捜す旅に出た少女が出会った剣士。彼は忌むべき存在の妖魔と暮らしていた。弟の失踪事件の謎が解けていくうちに、真に恐ろしいのは妖魔ではなく人ではないのかと思い始めた彼女が辿りつく答えとは……。剣士と妖魔との悲恋。彼と一緒に暮らす幼い妖魔の葛藤する姿に胸が締め付けられる作品です。人がちょっぴり信じられなくなっている貴方におススメの、信じる者は救われる系小説。

 最後に壁井ユカコさんの『2・43清陰高校男子バレー部』。

 中学の時、バレーにのめり込み周りが見られなくなった灰島公誓と、周りに流されてバレーに真剣になれなかった黒羽祐仁。幼馴染みながらも対照的な二人が、清陰高校バレー部でぶつかり合う。先輩や家族に支えられやがて最強のコンビに成長していきます。彼らを支える苦労性の先輩や、将来を見据えてあえて悪者になろうとするいとこ。そしてバレー部の中に芽生える恋物語。

 ただのスポ魂小説だけじゃないところがまた良いのです。

 今が現役の高校生諸君。今の自分にやり残しはないですか? そして遥か昔に現役を引退した諸先輩方。青春っていいなって羨ましくなりますよね。悔いのある人もない人にもおススメの、一生懸命応援系小説。

 

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