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秋の夜長にぜひおススメしたい「お月見」本

椰月美智子さんの『メイクアップ デイズ』で巻き起こる、個性的な人物たちの珍騒動には心が温まります。

丸善ラゾーナ川崎店(神奈川)市川淳一さん

 休憩時間に何を食べるか考えるのが億劫で、毎日職場近くの某大手牛丼チェーン店に通い詰めては同じものばかり食べている。咀嚼した刹那、身体とそのメニューが一体化したような感覚に襲われた時が店の替え頃だ。

 そんな「間違ったスティーブ・ジョブズ」と同僚から称される程、食に関心の薄い自分なので、今回のお題が食欲の秋に因んで「東京駅で買える! おすすめ駅弁ベスト5」とか、「一万円でお釣りがくる! 日帰り食いしん坊バスツアー」だったらどうしよう……なんて思っていましたが、普通に小説を紹介すればよいとのこと。安心しました。

 酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』は、巷に溢れる三国志関連作品とは一線を画する小説。いきなり世紀末有名アニメの主題歌を歌いだす孔明や、アントニオ猪木風に描かれた劉備玄徳、広島弁でしゃべる呉の武将たち等々、時代設定無視のユニーク過ぎる英雄達とストーリーテリングに爆笑必至の物語。また、ただ面白いだけでは終わらず、中国に造詣の深い酒見先生ならではの随所で語られる鋭い歴史解釈も素晴らしいです。三国志好きな方はもちろん、そうでない方でも楽しめる作品。秋の夜長に、ちょっと(だいぶ)変わった歴史大河ロマンはいかがでしょうか。

 永井するみ『秘密は日記に隠すもの』は、読者が作中の人物の日記を覗き見るという形のミステリ短編集です。それぞれの作品に独自のトリック・どんでん返しがあり、結末もゾッとするものから、涙してしまうものと様々。同じ制約の中で、これほど毛色の違う作品を書けるのかと思わず唸らされます。一つ一つは短くても、グイグイ物語に引き込まれ、夜更かししちゃうこと間違いなしの傑作ばかりです。

 椰月美智子『メイクアップ デイズ』は化粧品メーカーの研究部に勤める秋山箱理が、恋に仕事に奮闘する成長物語。箱理の肩にはタコが乗っかっていて、さらに祖母は真白な化粧をしており、素顔は誰も見たことがないため、「妖怪シロシロクビハダ」と言われている……。個性的な登場人物が巻き起こす珍騒動に、たくさん笑って、最後は温かい気持ちになれる作品。「明日もがんばろう!」って時に、是非是非おすすめしたい一冊です。

青春を思い出して切なくなる「切ねぇ!」本

『本屋さんのダイアナ』(柚木麻子)を読み終えた時、二度とあの日が戻らないことを思って、泣けてきた。

TSUTAYA寝屋川駅前店(大阪)中村真理子さん

 切ない、青春。青春、切ない。ちょっとひねくれた青春を送ってきた私は、スポーツも楽器も興味がなく素通りだった。本も大人になってから読むようになった。読書に遅いも早いもないけれど、やっぱりあの時出合っていたら。そんな風に思うこともしばしば。だが、もしタイムスリップして過去の人生に……、私は戻りたくない。ひねくれた青春時代はそんなにいいものではなかったのだ。もう二回もやりたくない! それが本心である。それでもあの頃の自分に無性に戻りたくなる時がある。一体このちぐはぐな思いはどこからやってくるのだろう。

『ふたりの文化祭』(藤野恵美)はタイトル通り文化祭の物語。今の今まで非モテ人生だった私からすると、モテ男やモテ女、いや私以外の人間は全て優れていて、自分だけが劣っている。そう思えて仕方ないのだが、非モテは非モテなりに青春めいたものに「うへぇ〜なんか青春してるんですけどぉ〜!?」といちいち戸惑って胸が勝手にときめく。止まってくれ、ときめき! 青春なんて、青春なんて……楽しくって最高やないか!! そう、青春とは勘違いも、ただの雰囲気も、含まれているのである!(なんと!)

『いとみち』(越谷オサム)はバイトでときめく系なのだが、思い出して切なくなるというよりは、主人公「相馬いと」が勝手に読者の胸の中に入り込んで暴れまくる。最初はなんかあんまり好きじゃない。ウジウジしている女の子が、頑張らなきゃ! と奮闘する物語ってどうしてこんなにキューン! とするのか。頑張れ、いと。私も頑張っから。青春には誰かの一生懸命な思いも入っている。

『本屋さんのダイアナ』(柚木麻子)はつい先日、文庫化になったばかりで売る気満々の本。タイトルに本屋さんとついているけど、だから売る気満々なわけではない。読んだ時に一瞬で小学生の頃にタイムスリップした感覚に陥った。具体的なエピソードや人物に誰かを重ねあわせたわけでもなかった。ただ「いつも語り合っていた友人」が「当たり前のようにそこに居た」という、過ぎ去った大切な日々が目の前にひろがり、そして消えた。読み終えた時、もう二度とあの日々は戻らないことを改めて思って、泣けてきた。青春をなぜ切ないと思うのか。それは胸の中の思い出が、過ぎた時が、知っている。「もう取り戻せない」ことを。

 

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