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今月飲むのを我慢して買った本

辻村深月さんが描くからこそ、絶対に理解できないと思った
主人公の、幸せを祈る気持ちになった『朝が来る』。

未来屋書店小阪店(大阪)谷 叶恵さん

 幸運なことに、今月も素敵な本にたくさん出合うことができました。あいにく私は未成年の身ですので、いただいたテーマを「大好きな炭酸飲料を我慢して買った本」に変えて紹介させていただきます。

 初めにご紹介するのは、北山猛邦さんの『私たちが星座を盗んだ理由』。

 かわいらしい装丁に、好奇心を刺激されるタイトルが気になり、購入しました。内容は意外にも、人間の綺麗ではない部分を切り取ったミステリー短編集です。

 舞台は日常から架空世界までさまざま。心の歪みから生まれる悪意の影が常に見え隠れしており、明るい話とは言えません。それでも読み進めていくうちにどんどん惹かれてしまうのは、その物語ひとつひとつがまるで童話のような雰囲気で、甘く綺麗にコーティングされているからだと思います。醜い気持ちを綺麗にくるんで味わった読後感は、今まで感じたことのないくらい強烈でした。

 二冊目に紹介するのは、加納朋子さんの『月曜日の水玉模様』。

 こちらは日常の謎をテーマにした連作短編集です。普通の人の一瞬に潜む魔や、優しいだけでない社会が描かれています。それでいて「善意以外の複雑な感情もたくさんあるけれど、優しい気持ちも確かに私たちの日常にあるのだ」と感じさせてくれるのは、登場人物たちが実に人間らしいあたたかみを持っているからです。とても優しい気持ちになれる一冊です。

 最後の一冊は、辻村深月さんの新刊『朝が来る』。

 辻村作品に登場する女性は、どうしてこんなにも近くに感じるのだろう、といつも思います。ストーリー展開は、出産をめぐる女性の葛藤と、言ってしまえばとても単純です。ですが、それだけではない魅力がこの小説にはあります。

 出産という現実に向き合いながら生きていく二人の女性の心理が、辻村さん独自の視線で描かれています。辻村さんが描くからこそ、自分とは全く違った境遇を持つ二人を、自分のすぐそばに感じる、愛さずにはいられなくなる。絶対に理解できないと思っていた、主人公のひとりであるひかりの幸せを祈るような気持ちで読み終えました。

当店の売れ行き30位前後にいる小説

澤田瞳子さんの『若冲』は、同時代の画家も登場し、
京の描写も加わって、正に若冲の絵のごとく絢爛な物語。

ジュンク堂書店吉祥寺店(東京)松川智枝さん

 まずは、まだ発売されたばかりで、これからランキングも上位に来るであろうイチオシの1冊、『君の膵臓をたべたい』(住野よる著)。読み始めは本当に生意気に感じる名前のない主人公が、物語が進むにつれて語り口調も使う言葉も変わってきます。

 人の一生とは何なのか、と考えさせられる驚きの結末は、名前のないただの子供であった主人公から、個性を持った一人の人格への成長を促し、感情移入を余儀なくされる感じ。

 物語とともに成長する主人公、タイトルの意味、ともに計算された新しい小説の登場だと思います。

 次に、発売から時間が経つにもかかわらず、安定したランキングを維持するものと、発売直後からじわじわと上位を窺う2冊の時代小説をオススメします。

 まずは前者、『土方歳三』(富樫倫太郎著)。富樫倫太郎の土方歳三は安定感が違います。リズミカルな文章なので、上下巻にもかかわらず集中してすぐ読めますし、少しずつ富樫流のストーリーが入ることで、凝縮した土方の生き様を、活劇を見ているように堪能できます。

 今回は〈箱館3部作〉とは違い正統派。表紙もかっこいいので、部屋に飾りたくなる。実際私は飾ってますが、これぞ新選組・土方歳三、という作品です。

 最後に後者、『若冲』(澤田瞳子著)。伊藤若冲という画家の数奇な人生に読み手を没頭させる小説であり、その絵を観る目を変えさせてしまう1冊。

 あの絢爛豪華な絵の裏に、こんなにも暗い感情を塗り込めていたのかと、改めてその絵を観ると、あぁそう言われればそうかもしれない、この金色はここまで金色にしなくても、こんなにそっぽを向かせなくても、などと、思わず専門家ぶりたくなってしまいます。

 同時代に活躍した画家たちも登場し、華やかな京の描写も加わって、正に若冲の絵のごとく絢爛な物語だと思います。

 ランキングにかかわらず、物語が時を忘れさせてくれる3冊です。小説を読む愉しさは、時が止まることだと思うのです。そしてそれは、魅了する読者の数の多寡ではないのではないか、と思います。

私はこの本を1日1冊1すすめ

大宮エリーさんの『猫のマルモ』に登場する動物たちが、
読み手である私たちに小さな感動を届けてくれます。

ジュンク堂書店新潟店(新潟)小松 薫さん

 梅雨のジメジメとした季節が終わり、いよいよ暑い夏が本番を迎えます。そんな季節の変わり目に、普段あまり手に取らないジャンルの本を読んでみてはいかがですか。3冊とも中身が全く違う、しかしあらすじは比較的馴染みやすい作品を紹介いたします。

 まずは大宮エリーさんの『猫のマルモ』。

 本作品の7つの短編に登場する動物たちが読み手である私たちに小さな感動を届けてくれます。実は子どもだけでなく大人が読んでもかなり楽しめるファンタジー。作中の至る所にちりばめられているメッセージを胸に刻み、明日に向かって大きな一歩を踏み出してみましょう。個人的には特にラストのツバメの話は涙なしには語れません。

 次は碧野圭さんの『書店ガール4』。

 先日のドラマでもお馴染みのシリーズですが、今回の主人公は理子と亜紀の2人でなく、第3巻に登場した愛奈と彩加に代わっています。

 これまでのシリーズとの違いは、書店業界全体の厳しさというよりはむしろ、当人たちの置かれた心境によりスポットを当てている点。さらに、主人公2人はやはりライバルではあるが、共同のイベントを成功させた経緯からやや仲間意識も強くなっています。サブタイトルにもある「パン」の部分を読み進めることによって次第に物語の深みを感じていくことができます。すでに3巻まで読んでいる方はこれまでにない新鮮な気持ちになることでしょう。

 最後は、冲方丁さん、葉室麟さん、伊藤潤さんらによるアンソロジー『決戦!関ヶ原』。

 7人の作家による7つの物語。それだけに武将の人物像の捉え方や文章の特徴などで個々の作家の個性が出てきますが、すべてを読み終わったときにより贅沢感を味わえます。徳川家康や石田三成、小早川秀秋などの中心人物だけでなく、歴史上ではあまり目立たない武将の物語もきちんと組み込まれ、戦いの全体図をさらにいろいろな角度から見ることができます。

 時代小説初心者の方でも気軽に手に取れる内容となっているので、この機会にぜひ読んでみてください。

 以上の3冊をクーラーの効いた部屋で読むもよし、そよ風を感じながら公園のベンチで読むもよし……です。

 

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