映画ドラえもん×川村元気 小説版刊行記念インタビュー

 
一番尊敬している作家は、藤子・F・不二雄だ

 

 映画プロデューサーとして多くのヒット作を手がけ、『世界から猫が消えたなら』『億男』などベストセラー作家の顔をもつ川村元気が、33日に公開される「映画ドラえもん のび太の宝島」で脚本家デビューを飾る。映画の公開に先駆け、脚本を完全小説化した『小説 映画ドラえもん のび太の宝島』が2月6日に発売された。小説版の刊行を記念し、川村元気に、藤子・F・不二雄先生への想いや「ドラえもん」について訊いた。

川村元気さん


「一番尊敬している作家は、藤子・F・不二雄です」

  インタビューは、この言葉ではじまった。

「F先生の作品は、いつもSF(すこし・不思議)で、古典落語のようにウイットとユーモアに満ちています。僕が作っている映画や書いている小説も、気づけばどこかSF(すこし・不思議)な世界にある」

 藤子・F・不二雄先生への敬意は、処女作にも影響を与えていた。

「僕が初めて書いた小説『世界から猫が消えたなら』の中で、余命わずかな主人公の前に突如現れた悪魔が、一日の命と引き換えに世界から何かを消す取引をもちかける。『何かを得るためには、何かを失わなくてはならない』と。『それが世界の原則』なんだと。F先生が描く物語は、いつもこのテーマを僕に突きつけてきたように思います」


F先生の頭の中を冒険したい

 F先生へのリスペクトを語っていたら、藤子プロさんから「映画ドラえもん」の脚本オファーが来た。

「『やめておけ』と心が警告したんです。自分が愛してやまないものに手を出していいのか? と真剣に悩みました。けれども藤子・F・不二雄という作家が、何を考えながらドラえもんを描いていたのか、その頭の中を冒険してみたいとも同時に思ったんです。気づけば大長編をすべて読み直し、F先生のインタビューにも全部目を通していました」

 先生が今、新しい大長編を書くとしたらどうするのだろうと思考を巡らせた。

「すると、いつも大長編には王道の少年冒険譚があることに気づいたんです。しかも、都市伝説や自然現象などの時事ネタを巧みに取り込んでいる。そんな時に、ずっと不思議な現象として記憶に残っていた『小笠原諸島に生まれた新しい島』のニュースと、古典であるスティーヴンソンの『宝島』が融合したんです」


現代の宝島を目指して

 そこからは、一気に脚本を仕上げたという。映画にこめた想いを訊いた。

「脚本を書きながら、のび太が見つける宝物は、金銀財宝ではないと確信していました。では、一体何なのか。詳しくは映画をご覧いただきたいのですが、きっと大人と子どもとでは受け取る印象は違うんじゃないでしょうか。いずれにしても、映画を観た人にとって、“現代の宝島”になることを願っています」


小説版刊行に寄せて

「脚本は一言、二言で意図を伝えなければならないので、セリフの前後や背景を詳しく描けないんですね。テーマとして伝えたかったこと、そして、のび太たちの想いを、文字を使って深く描いているのがこの小説版です。映画とあわせて読んでくれたらうれしいです」


川村元気をつくった“ひみつ道具”

 最後に、ドラえもんの映画をつくるうえで、影響を受けた“ひみつ道具”や、印象に残っているエピソードを挙げてもらった。

 
「石ころぼうし」

 初めて書いた長編小説『世界から猫が消えたなら』の中に、「石ころぼうし」を登場させました。今回の脚本の仕事以前に使わせていただいた、唯一のひみつ道具です。それくらいぼくにとっては印象的で心に深く刻まれた道具なのです。(てんとう虫コミックス4巻)

 

「重力ペンキ」

 日常的なもの+科学の概念というところがドラえもんらしくて好きな道具です。今回の映画の大事なシーンでどうしても使いたくて、監督のコンテにあとから描き加えてもらいました。大長編ドラえもん「のび太の大魔境」でも活躍します。(てんとう虫コミックス5巻)

 

「バイバイン」

 “何かを得るためには何かを失わなければならない”という真実を、ぼくはこの物語から教わった気がしています。それはデビュー小説『世界から猫が消えたなら』にもつながっている、ぼくの重要なテーマなのです。(てんとう虫コミックス17巻)

 
「ブルートレインはぼくの家」

 今回の映画「のび太の宝島」で、河川敷に巨大な帆船が現れるシーンがありますが、じつはこの作品に通じています。家が線路の上を走り出すという発想がすごい。日常の風景のなかにこつ然と現れた非現実感。そこにぼくはたまらなく惹かれるのです。(てんとう虫コミックス25巻)

 
「ぼくミニドラえもん」

 じつは子どものころに一番ほしかったのは「ドラえもん」なんです。そんな夢を叶えてくれるひみつ道具という意味で、ぼくは「ミニドラ」が大好き。だから「のび太の宝島」の中にたくさん出したくて登場の仕方をちょっと工夫しました。(てんとう虫コミックス41巻)

 
「アンキパン」

 食パンに暗記したいものを写して食べれば全部覚えられるというひみつ道具で、ものすごく欲しかった。うんちをするとぜんぶ忘れてしまうというオチが秀逸で、藤子・F・不二雄先生の作品はまるで落語だと改めて思いました。(てんとう虫コミックス2巻)


(構成/涌井 学)

 

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詳しくは、ドラえもんチャンネルをご覧ください。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

川村元気(かわむら・げんき)


1979年生まれ。『電車男』『告白』『おおかみこどもの雨と雪』『君の名は。』『怒り』等の映画を製作。2011年に「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年に、初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。小説『億男』『四月になれば彼女は』、絵本『ティニーふうせんいぬのものがたり』『ムーム』『パティシエのモンスター』など著書多数。

 

 

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映画ドラえもん のび太の宝島 3月3日公開
http://doraeiga.com/2018/