ゆっきゅんの毎日今日からちゃんとしたい日記 ☆2026年2月前半★

ゆっきゅんの毎日今日からちゃんとしたい日記2026年2月前半

 2月1日 

 
 ルアンとの神戸旅行2日目。よく寝た。午前中は異人館を散策し、昼過ぎに横尾忠則現代美術館へ歩いていると、左隣に兵庫県立美術館王子分館 原田の森ギャラリーという施設があった。地元の高校の美術科の展示が開催されているらしい。見逃せるわけがない。

 
(東京の大人は東京藝大の卒展に行ってる。わざわざ時間指定の予約をして青さの保証された若者芸術を見て「私的な作品ばかりで……これは日記・短歌ブームとも通ずる……そしてそれは……政治状況に直結している……」(ざっくり)とか言ってうっとりしてる、あるいはそんなネットの意見に「ふむふむ」とか思ってる大人を見ると、別にいいけど反吐が出る。キュレーターでも芸術家でもなく、あれは何なんだ。それは展示を鑑賞した感想ではないだろう。元々の自分の中で温めていた意見があって、この場合「最近の若者」に対して自分の持ちたい期待があって、それを確認することができて満足だったんである。しかも行くのは東京藝大の卒展で、ある程度のクオリティが担保されたものしか見る気がない、つまりサボりである。そんなに若者の作る作品が好きなら、進級展にも行け。他の美大・美高の展示も行け。自分で見つけないと。そして個展に長く居座るのはやめろ。映画批評の中にも、自分の言いたい理論を補強するために証拠として映画を利用するタイプの文章があって、好みじゃない。感動の先に知識を持ち出せばよい。)

 
 六甲アイランド高等学校という学校の美術・デザインコースの展示で、卒展ではなくそれぞれの学年の作品の展示があり、でも3年生はこれ卒業制作ってことなんだろう。狭くない会場だが、制作者と在校生と保護者と卒業生以外にはあまり人は来ていないようだ。ルアンちゃんは美術系の高校を油絵専攻で卒業しているので全体の空気を懐かしそうに見ている。油絵、デザイン、彫刻、などさまざまな作品ジャンルがあって、入り口付近の中央には服飾もある。そこに明らかに突出した才能が光っていた。

『You make my heart flutter.』。心はあなたにときめく。魔法少女をテーマにした衣装と大きなステッキと、本人が校内でそれらを着用した写真。衣装はロリータファッションとアイドル衣装と魔法少女アニメの文脈を融合させたような作品で、ピンク地にホワイトの装飾と赤のリボンを使用したトップスとスカートのセットアップとレースのアームカバーだった。きっとブランドならNILE PERCH、アイドルならきゅるりんってしてみて、アニメならカードキャプターさくらとかが好きなのかなって感じがする。ファッションというよりはコスチューム寄りだ。胸元の大きなピンクのリボンを覆う白レース、リボンの真ん中部分についた赤いハートのビジュー、両肩の大ぶりの白フリルの丁寧なパイピング、白レースのアームカバーの袖近くにあしらわれた赤リボンの他の箇所とは違う細さとか、そのときめきへの厳格なこだわりは私にとって激しく伝わってくるものだった。これを縫いながら一人で聴いていた音楽がきっとあって、教えてくれたらそれごと私は好きになる。

 服だけ見ても素晴らしいけれど、心底感動したのがドデカステッキだ。まず何よりも大きかった。服を着たトルソーよりも大きかった。中心がくり抜かれたメタリックな赤いハートの上に、ゴールドのハートが乗せられていて、赤いハートの下のV字部分には白い羽が膨らむように生やされて、長ーい持ち手はもちろんピンク色だ。白い羽の部分には透明な偏光オーロラカラーの塗料が塗られそのディティールに再びきゅんとした。こんな巨大なかわいさを作っている人は他にいなかった。大きなステッキはきっと展示方法および固定方法が問題となったはずだが、展示台に黒い布を被せてステッキを立てかけた上に、赤いリボンと白いレースを2本斜めに縛って固定していた。ああ!なんて可愛いのか。

 誰目線だよって話だが、こんな部分にまで手を抜かずに完成させることができるのであれば、あとはもう技術を磨いて場数を踏めばどこへだって行けるだろう。次は何が作りたいんだろう。自身が着用した写真は地味で日常的な学校の風景で撮られていてコンセプチュアルだったし、フォトフレーム3つはきちんと選ばれた可愛い色と形で、写真を展示する台に敷かれたリボン柄のクロスとレースにも妥協がなかった。作者の何人かは在廊しているぽかったので本人がいるなら「めちゃ可愛いです」と伝えたかったけど、この写真に映る人は見つからず、話しかける知り合いもいない(当たり前)ので、ステッキに感動したまま、横尾忠則現代美術館に向かった。

 
 もう一度ステッキを見たかった。横尾芸術を堪能し、原田の森ギャラリーへ再入場。元々ここに来るはずもなかった私たちは、本当にもう二度とここを訪れることはないから、作者に思いを伝えることへの諦めが悪くなってきていた。おそらくステッキ作者ではない、近くの作品を解説している同級生らしき人がいて、「あの作品を作った方はいませんか」と尋ねた。一瞬「……?」という顔をされて、「知り合いとかじゃないんですけど、すごくいい作品だなと思ったので」と話すと辺りを軽く見回して「あー、今はいないみたいなんですけど、あとで言っておきますね」と言われた。自分勝手で申し訳ないですが今すぐLINEしてほしいくらいだった。たらたら他の作品を眺めていると、在学生たちに集合の号令がかけられた。みんなが奥側へと歩いていたとき、さっき声をかけた学生が「この子です!」とステッキ作者の魔法少女を見つけてくれた。完全に「ほえ……?」という顔をされてしまっていたが、服もステッキもめっちゃ可愛いですってこと、どこに出しても通用するクオリティだと思いますってこと、ぜひ作品を作り続けてくださいってことを手短に伝えた。ピンクへアのド派手な兄ちゃんとファーコートを着た美女に呼び止められてなんかを言われたのだからびっくりしたとは思う。それでもあなたの作ったものとそれを生み出した心自体がどれほど特別に映ったのかを、伝えるべきだった。

 
 ああ、もし俺が名刺とか持っていればありえんほどかっこつけて「キミ、東京に来る時は連絡してね」と言って去ってもよかったくらいだ。勝手にその子が主役のパラキス、そう矢沢あいの『Paradise Kiss』のような物語が頭で進行していてやばかった。頼まれてない。ゆっきゅんの衣装デザイナーのアシスタントになってアトリエに入り浸り、TOKYO LIFEをエンジョイしつつ夜遅くまで制作に没頭し、学校の外でも技術を学び、「このアトリエ、課題やるのにも全然使っていいよ」とか言われて「いいんですかぁ!?泣」と言う場面まで視えていた。頭だけいつも速くて自由で申し訳ない。でもあんなに可愛いものを作れる人なかなかいないって、東京で10年以上かわいいものばかり厳しい目で見てきた私が思ったんだもん。ポストしたら普通にバズって、それはそう。

 2月2日 

 
 昨日の話だけど横尾忠則現代美術館はこの世の多くの個人美術館・記念館が常設収蔵品の中から「○○(作家名)と猫」とかで企画展を組む(我々はそれを全然楽しむことができる)のに対して全く違う態度で三階分を特別展で埋め尽くしており気合いが違った。大横尾辞苑という、横尾忠則さんにまつわるA to Zさらに45音の単語を解説し、その関連作品を一つずつ展示する見応えのある企画だった。

「ゆ」の項目は「郵便」だった。高校生の横尾さんは画家になるか郵便局で働くか悩むくらい郵便にのめり込んでいたらしく、「郵便友の会」を高校の中に創設。郵便にのめり込んでいる人って何?とウケつつ、LINEやXやインスタのDMにのめり込む人ならわかるそういう感じか。高校生の横尾さんは女子高校生との文通にハマっていたらしい。熊本の女子高校生や、ニュージャージーの女子高校生とも文通をしていたらしい。これ、かけがえなくないか? だってつまり、横尾忠則と文通をしていた女子が少なくともこの世に二人いたのだ。忘れた話かもしれない、もう死んでるかもしれない、生涯の自慢話かもしれない、相手もすごい人になってるかもしれない、とか色々考えちゃったね。

 
 岡山へ。ルアンと、私の実家に行った。私が小六のときに作った彫刻図工オルゴールボックスを見たいとルアンが言ってくれて、部屋の棚の奥から引っぱり出した。ブラウンに白のドットを背景にユニコーンの白いシルエット、左上と右下には丸くレース装飾を細かく描いて、ピンクのカーテンのような装飾を頑張って描いている。ドットとか全然うまく描けてないけど、とにかく好きなものが一切変わっていなくて自分でも感動する。大丈夫、君はこのまま大人になれるんだよ。こいつを抱きしめるために私は東京で人前に出てるんだ。箱を開いてオルゴールのネジを回すと、倖田來未さんの『恋のつぼみ』が流れ出して、覚えてなくて笑った。ドキドキに勝てない人生。

 2月3日 

 
 元来、私は川瀬智子男性だったはずだ。Tommy february⁶の着てそうな服やその世界観を、まんま真似るのではなく、自分なりに解釈したアティチュードによってファッションに落とし込み、肩の力を抜いて服飾生活を送ること。それが川瀬智子男性の生き方。気合いの入りすぎた私にプライベートの時間を発生させようと、4年ほど前に決めた私服のコンセプトだ。旅行1日目のルアンの私服を見るまでその自覚を忘れてしまっていた。この俺が。だから今日は春服をネットで見まくっていい感じの服のスクショを撮り、川瀬智子男性として兜の緒を締め直した。川瀬智子男性、再生──。

 2月4日 

 
 アート、特に20世紀美術についての展覧会などの仕事を少しずついただくようになり、感性だけでは誤魔化しが利かない(勉強したいで伝わります!)と思い、識者に必読本を尋ねると親切に3冊教えてくれた。私は素直なのでこれを本当に読んでいこう。もし、映画の分野で初学者向けの必読本を聞かれたらなんと答えるかも考えてみる。新書で3冊『フランス映画史の誘惑』『日本映画史110年』『新版 ハリウッド100年史講義』、それから塩田明彦監督の書いた『映画術』が最適と答えることにしよう。まだ誰にも聞かれていない。

 2月5日 

 
 朝活美術館。今日は東京都美術館で始まったばかりのスウェーデン絵画展。ほっこりとした暮らしみたいな側面だけではなく、北欧の抱えるダークな部分まで展示されていたのがよかった。日照時間が短すぎて鬱の人が多いんだって聞いたから。

 一昨年の北欧絵画展で見た光と同じ光と空気を、フィンランドに行った時に見て、画家は見たままの姿を描いているのだと知った。作家にとって作品は、自分には世界がどう見えているか、の表明だ。その話を友人にしたとき、ロンドンでターナーの絵と同じ空を見たこと、オランダでフェルメールの絵画と同じ光を見たことを教えてくれた。スウェーデン絵画は、オーロラの見える地域で深い空を眼差してきた人の描くものという感じがするし、翻って浮世絵は日本でしか生まれることもなかったと思う。

 2月6日 

 
 期日前投票。なんか届いてたはずの投票用紙見つからなくてめんどくさ、なんなんだよってなりながら手ぶらでいったけどいけた。戦争絶対しない。同性婚はやく法制化して。排外主義に反対。はやく夫婦別姓選べるようにして。基本的人権を憲法から消そうとしないで。気になる点はそれぞれだと思うけどだるくてもめんどくさくても詳しくなくても、少し調べれば親切な人が解説してくれているし、最悪な日でもどうにか投票には行こう。

 2月8日 

 
 横浜美術館で「いつもとなりにいるから 日本と韓国、アートの80年」を見る。3時間くらいじっくり見ていた。私は韓国と日本の近現代史について知らないことばかりの吞気な人間なので、読みたい本や得ておきたい知識の増える、ありがたく渋い展覧会だった。高嶺格の『Baby Insa-dong』という作品は作家本人と在日コリアン2世の彼女の結婚式の写真と映像と言葉のインスタレーションで、パートナーが抱える複雑な葛藤に気づいた自分の葛藤や、その認識が交流によってどう変化していくか、妻の父親と会う時の心情などが連続した写真の上に本人の率直な言葉で綴られている。結婚式の途中でドラァグ・クイーンのナジャ・グランディーバさんが登場して、その何者でもないエネルギーが作品の終盤の爆発力として実感を伴って存在していて(というかオチ?みたいになってる)、突き抜けていくパワーに私も感動したが、感動している場合でいいのかは私もよくわからなかった。クィアは全てを超越した存在! なんて鈍感なテーゼがそこにあったわけではないけれど。よくわからなくてもいいのかもしれなかった。

 
 今日は雪の日。積もり切ってる。私たちが起きる前にものすごい量の雪が降っていたんだろう。雪化粧の横浜を散歩すると午前中に誰かが作ったらしい雪だるまが点在していた。公園の木のテーブルの上に小さく並んだ雪だるまは見たことないけど冬ソナだ。雪だるまは楽しい気分以外で作るものではないから、数時間前にここにあった楽しさの痕跡を眺めているようでもあった。海辺に4つ並んで雪だるまがあって、その顔の形は崩れているからまえとうしろもはっきりしないはずのに、どうしてあれが後ろ姿だってわかるんだろうねって、不思議だった。

 2月10日 

 
 国立新美術館でYBA 展の内覧会。須藤絢乃さんとの国立新美術館メモリーズといえばやはり目的の展示以外の公募展に迷い込んで宝物に遭遇することだけど、内覧会はそうはいかない(当たり前)。

 ダンスを扱った作品たちがいくつかあって気になった。現代のダンスの多くは振付のあるものを指すけれど、もっと、規範を逸脱する手段としてのダンスがある。かつて「イートインコーナーで続けられないDANCE」(『かけがえながり』)って歌詞を書いたけど、ジリアン・ウェアリングの『ダンシング・イン・ペッカム』はショッピングモールの通路で、無音で(!)踊り続ける映像作品だった。私かと思った。踊り続けること自体もよかったけど、前後の移動をせずに踊り続けているのも面白かった。銀座の歩行者天国で人混みをすり抜けて踊り続けるおとぎ話のMV『COSMOS』のようなものでもなく、買い物をする一般客を巻き込むわけでもない。通りすがりの客が「え?」ってなりつつ歩行をやめないくらいの、逸脱。トレイシー・エミンの映像作品『なぜ私はダンサーにならなかったのか』もすごくよかった。語りの態度が岡崎京子みたいで、たしかに同時代。

(次回は4月23日に公開予定です)

 


ゆっきゅん
DIVA・作詞家 1995年岡山県生まれ。青山学院大学大学院文学研究科比較芸術学専攻修了。2016年、ルアンとのサントラ系アヴァンポップユニット「電影と少年CQ」を結成。2021年よりセルフプロデュースでのソロ活動「DIVA Project」を本格始動。アーティストとして楽曲を発表するほか、作詞提供、コラムや映画評の執筆など活躍の幅を広げている。アルバムに『DIVA YOU』『生まれ変わらないあなたを』、最新EPは『OVER THE AURORA』。文化放送「武田砂鉄 ラジオマガジン」水曜後半レギュラー。
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田口俊樹『エージェントは二度推理する』
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