◎編集者コラム◎ 『つめ』山本甲士
◎編集者コラム◎
『つめ』山本甲士
現在、ロングセラーとなっている『ひかりの魔女』シリーズや『ひなた弁当』をはじめ、多彩な作品を発表している山本甲士さん。そのひとつに、「巻き込まれ型小説」と呼ばれる作品群があります。隣人同士の諍いが最悪の泥仕合にヒートアップしていく『どろ』、過労で病気に倒れた夫に理不尽な扱いをした大企業に立ち向かう主婦を描く『かび』、市役所職員として、さまざまなトラブルに直面しながらも奮闘する男の活躍『とげ』など、読み始めるとページを繰るのが止められなくなる小説ばかりです。
2016年に単行本で刊行され、今回文庫になった『つめ』は、この「巻き込まれ型小説」であるとともに、もうひとつの読みどころもある作品です。
主人公は、真野朱音。2年前に結婚した夫・勝裕には、交通事故で亡くなった前妻との間に出来た子どもがいました。勝裕は長期出張で不在で、今は裕也との二人暮らしです。フードコートのうどん店でパート従業員で働いた朱音は、帰宅後、地域の子ども会の渉外担当として南郷不二美宅を訪れました。公園に面した南郷宅のフェンスを覆ったイバラの棘で、子どもの怪我が続いたため、剪定をお願いするためでした。だが、愛犬のドーベルマンと暮らす南郷は、町内でも有名なモンスター住民。朱音はけんもほろろに断られ、市役所が注意喚起のプレートとロープを張ってくれました。その後、注文していないのに大量の寿司の出前やケーブルテレビ契約の訪問が続いたのです。
同じ頃、裕也が小五になってしばらくなかったいじめに、再び遭っていることがわかったのです。朱音は、痴漢に遭遇したり高圧的な父親とぶつかった体験から、やられたらやり返すべきと考えています。裕也は、ガンジーを尊敬しており、やられても平気な人が強い人だといいます。それではいけないと考える朱音は、南郷と闘うことを決意します。次第にエスカレートしていく二人のバトルはヒートアップ。そして裕也は自分らしい考えでいじめをなくそうとします。それぞれの結末は!? そして、思いも掛けぬラストに涙腺が決壊……。
「自分を守るにはどうすべきか」「そして母になる」、二つのテーマを持った『つめ』。どうぞお楽しみ下さい!
──『つめ』担当者より