◎編集者コラム◎ 『さよなら、ムッシュ』片岡 翔
◎編集者コラム◎
『さよなら、ムッシュ』片岡 翔
コアラのぬいぐるみがしゃべります。
このお話は、ドラマ「ネメシス」などの脚本家でもある片岡翔さんの小説デビュー作の文庫版です。
ある日、氏が本作の脚本、そして主人公であるコアラのぬいぐるみ・ムッシュ一体(特注したもの)を携えて私のところにやって来たのが事の始まりでした。聞けば、脚本を読んでおもしろいと思ったら、本作の小説を書かせてほしい、とのことでした。
ストーリーは、ひとことでいってしまえば、しゃべるコアラのぬいぐるみと死に至る病にかかってしまった20代男性の友情物語、ということになります。
片岡さん自身、実際、ビスクドールの人形プロデュースなどでも知られる父・佐吉さんから分け与えられたという、ロンドンのゴミ箱から救済されたぬいぐるみをとても大切にしている、と話されていました。
ある日、自分が死ぬ事になったら、ぬいぐるみも一緒に燃やしてほしい、と口にしたお姉さんの言葉に違和感を覚え、そのことが心のどこかに残り続けたことで生まれたストーリーが本作です。
死ぬのが怖いのは、どうしてだろう。
それは、大好きな人と、別れないといけないからだ。
このお話のキーのひとつとなる言葉ですが、だからそれはコアラのぬいぐるみであるムッシュに向けられたものなのです。
私自身、ぬいぐるみはひとつも持っていませんが、何度読んでも感情を揺さぶられてしまうのは、そんな作者自身のリアルかつ切実な思いが行間を通して伝わってくるからだと思います。
エンターテイメント作品のジャンルに入りますが、そこに込められる思いに嘘はまったくない。まるで、人形に魂を込める人形作家のように──。
松本大洋さんが描いてくださったムッシュが表紙になって、書店などで待っています。
よろしかったら、家に連れて帰ってあげてください、
──『さよなら、ムッシュ』担当者より
『さよなら、ムッシュ』
片岡 翔