ツチヤタカユキ『前夜』

ツチヤタカユキ『前夜』

前夜前夜


『YouTube は元々、出会い系サイトだった』
という話が好きだ。

  

動画を利用した、出会い系サイトとして、
作ったサービスが、いつの間にか、
今のような使われ方になって、
現在の形にまで発展したらしい。

そのエピソードは、僕の人生にとって、
希望のような話でしかない。

今まで、何かを死ぬ気でやっても、
上手くいかなかった事が、たくさんあった。
そんな時は、
いつもこのエピソードを思い出しながら、
自分に言い聞かす。

  

なりたかった形になれなくても、
そこで、培ったスキルは、
必ず、別の形や、別の場所で生かされる。

  

28歳で、小説を発売した後、
すぐに二作目の小説オファーが来た。
求められたのは、またもや私小説。
一作目で、ネタを出し尽くして、
弾切れだった僕は、
文体と表現力を突き詰める事にした。
普通の出来事を、
どれだけヤバい文体で、
表現出来るかにチャレンジした。
死ぬ気で毎日、文体の事だけを考えて生きた。

そんな風にして書いた、
二作目は、あまり売れなかった。

だけど、そんな生活を経た後、
気付けば僕は、
詩が書けるようになっていた。

せっかく詩が書けるようになれたから、
詩の雑誌に投稿する事にした。

毎日、詩を書きためては、毎月月末に、
プリントアウトして送った。

初めて、詩の雑誌に載ったのは、
僕が人生で、三個目に書いた詩だった。

詩の雑誌を開いて、胸中は、激震した。
それは初めて、僕の文学的センスが、評価された瞬間だった。

新人賞を取らずに、小説家デビューした僕は、
散々、文学的センスをバカにされまくって来た。
これでやっと、本物だという事が証明出来たように、思えた。
今更、そんな事を証明した所で、何ともならないんだけど。

それからも、毎日のように、詩を書いた。
こうして僕は、
一年間で、100編くらい、詩を書く生活を過ごした。

そんな事をしても、
もう永遠に小説なんか、出せない気がしていた。

だから、そこから、
三作目が出せる日が来るなんて不思議な感覚だ。

三作目って感じじゃなく、
一度死んだ小説家の、新しい一作目であり、
詩人が書いた新しい一回目の小説。

  

終わりは、
仕事がゼロになった時じゃない。

自分で自分を、ヤバいと思えなくなった時だ。

自分をカッコいいと思えなきゃ、
ヤバいと思えなきゃ、終わるんだよ。

そして、
僕が一番カッコ良くて、ヤバいと思える瞬間は、
一回目の中にしかない。

 


ツチヤタカユキ
1988年、大阪府生まれ。「着信御礼!ケータイ大喜利」でレジェンドの称号獲得をはじめ、「オールナイトニッポン」などでも「伝説のハガキ職人」として知られる。2017年、自身の赤裸々な日々を綴った『笑いのカイブツ』を刊行。同作は映画化も予定されている。

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前夜

『前夜』
著/ツチヤタカユキ

◎編集者コラム◎ 『犬から聞いた素敵な話~涙あふれる14の物語』山口 花
週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.17 丸善お茶の水店 沢田史郎さん