◉話題作、読んで観る?◉ 第13回「バーニング 劇場版」
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監督:イ・チャンドン/出演:ユ・アイン スティーブン・ユァン チョン・ジョンソ/配給:ツイン
2月1日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
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http://burning-movie.jp/
村上春樹文学において、1984年に刊行された短編集『螢・納屋を焼く・その他の短編』は重要な位置を占めている。巻頭を飾る『螢』は、その後『ノルウェイの森』として長編化された。続く『納屋を焼く』は、この世界は目に見える領域と見えない領域とに二分されており、それは見えない壁によって隔てられているという村上作品に共通するテーマを内包している。
文庫本でわずか31ページの『納屋を焼く』を長編映画として撮り上げたのは、『シークレット・サンシャイン』などで知られる韓国映画界の名匠イ・チャンドン監督。現代の韓国を舞台にした『バーニング劇場版』は、韓国でも幅広い世代に読まれている村上ワールドに新しい解釈を与えた不思議な味わいのあるミステリーとなっている。
兵役を終え、大学を卒業したジョンス(ユ・アイン)は、アルバイトをしながら小説家を目指している。ある日、街で幼なじみの女の子・ヘミ(チョン・ジョンソ)から声を掛けられる。アフリカへ旅行するので、マンションで飼っているネコの世話をしばらくしてほしいと言う。
アフリカから帰ってきたヘミは、金持ちの青年ベン(スティーブン・ユァン)と一緒だった。ヘミを挟んだ奇妙な三角関係が始まる。北朝鮮との国境近くにあるジョンスの自宅で、呑み明かす3人。大麻を吸いながらベンは古いビニールハウスを燃やすことが趣味で、今日もその下見にきたのだと話す。
その日以来、ヘミは姿を消してしまった。また、ジョンスがいくら探しても燃えたビニールハウスを見つけることはできない。小説の執筆に行き詰まったジョンスは、次第にベンの行動を怪しむようになっていく。
主人公の前から消えた女性、水のない井戸、ギャツビーのように裕福だが空虚な生活……と村上作品に度々登場するモチーフが組み合わさり、長編小説を読み終えたような満足感が残る。
95分のテレビ版が年末にNHK総合で放映されたが、容易には解き明かされない村上作品だけに、上映時間148分ある劇場版をじっくりとスクリーンで楽しみたい。見終わった後には、村上ワールドで描かれる見えない壁の正体がはっきりと感じられるに違いない。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2019年2月号掲載〉