憧れのライフスタイルが詰まっている3冊
『昨夜のカレー、明日のパン』(木皿泉著)
7年前に死んでしまった夫、一樹。今も一樹の父、ギフと一緒に暮らすテツコ。変わらない日々を送り続けるテツコに恋人からの結婚話が持ち上がって……。
関わりあった人々は、いつしかゆるゆると一樹の死を受け入れていくのだった。世界から大切な人がいなくなってしまう。人の死はどうしたって悲しいものだ。
しかし、「大切な人の死と共に、これからも生きる」のを受け入れるとは、こういうことなのだと気づかされる。幸福感に包まれるラストが素敵な物語だ。
『木暮荘物語』(三浦しをん著)
都会の片隅、小田急線・世田谷代田駅から徒歩5分、築ウン十年のぼろアパート。その名も「木暮荘」は全6室、入居者は大家を含めて4人。ある日、穏やかな日々は崩れだした。
世田谷代田という場所に、個人的に馴染みがあったので、とても親しみを持って読んだ。
安普請だからこその薄い壁、天井板。聞きたくなくても聞こえてくる、入居者たちの生活音が、少しだけ人の温もりに感じられてくる物語。
『ツバキ文具店』(小川糸著)
鎌倉で小さな文具店を営みながら、手紙の代書屋をする鳩子。通称ぽっぽちゃん。代書の依頼はお礼の手紙から絶縁状まで、様々だ。鳩子の仕事ぶりは素晴らしく、便箋、封筒、ペン選び、切手にいたるまで吟味する。依頼主の想いがどうしたら伝わるか、気持ちを込め、字のスタイルまで合わせていく。メールや電話はもちろん便利ではあるけれど、手紙というツールがいかに素晴らしいかを再認識させられる。鳩子の代書がもたらす感動もさることながら、鎌倉の暮らし、鳩子の日常にもとても興味をそそられる。
今回ご紹介した作品は、どれも読後、ふと「この物語、好きだな」という気持ちにじわじわ満たされていく。なんとも幸せな気分だ。この感じがとても好きだ。
そして、私は普段から「暮らし」にとても興味がある。登場人物の住む家、食べるもの、使うもの、暮らしぶりが描かれている小説が大好きだ。それらは私自身の暮らしに、変化をもたらすこともあるのだ。