◉話題作、読んで観る?◉ 第18回「Diner ダイナー」
脚本:後藤ひろひと 杉山嘉一 蜷川実花/音楽:大沢伸一/監督:蜷川実花/出演:藤原竜也 玉城ティナ 窪田正孝 本郷奏多 武田真治 斎藤工 佐藤江梨子 金子ノブアキ 小栗旬 土屋アンナ 真矢ミキ 奥田瑛二/配給:ワーナー・ブラザース映画
7月5日(金)より全国公開
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暴力と血にまみれた平山夢明の毒々しい長編小説が、人気フォトグラファーでもある蜷川実花監督によって華やかに実写映画化された。蜷川監督は『ヘルタースケルター』以来、7年ぶりの新作。原作が胃もたれしそうなほどの濃厚なフルコースディナーなら、映画版は若者向けのカジュアルなカフェめしといった趣きがある。
物語の舞台となるのは、殺し屋たち専門の食堂。危険なアルバイトに手を出したオオバカナコ(玉城ティナ)は裏社会の構成員たちに拉致され、ワケありな会員制食堂で働くことに。厳重な扉で守られたこの食堂は元殺し屋のシェフ・ボンベロ(藤原竜也)をはじめ、常連客も全身傷だらけのスキン(窪田正孝)、見た目は少年だが陰惨な殺しを好むキッド(本郷奏多)ら常規を逸した犯罪者ばかりだった。対応をひとつ誤れば、速攻で殺される。ウェイトレスとなったカナコの悪夢のような日常生活が始まった。
それまで家庭にも実社会にも自分の居場所を見つけることができずにいたカナコは、殺し屋たちを相手に命懸けの時間を過ごすことで逆に生きる活力を手に入れる。ボロボロになるまで働いた後に食べるボンベロ特製バーガーは、どんな高級グルメよりも格別にうまい。逃げ場のないどん底世界に堕ちていくことで、平凡な女の子がしたたかさを身に付けて成長を遂げていく現代のビルドゥングス・ロマンとなっている。
バイオレンスシーンが満載のため映像化は難しいとされてきた平山夢明の小説だが、蜷川監督は殺し屋たちが集まる血なまぐさい食堂をポップなアート空間へと変え、流血シーンでは血しぶきの代わりに赤い花びらをスクリーンいっぱいに舞わせている。平山作品がR指定なしで、映画化されたことに驚く。また、15歳で舞台デビューを果たした藤原竜也が扮する天才料理人ボンベロの命の恩人役には、意外なキャストが登場。蜷川監督の遊び心が本作の隠し味となっている。
果てしない暴力と欲望を肉詰めにしたメインディッシュの後には、ささやかながらも生きる希望という名の甘美なデザートが供される。食べやすく調理された映画版を楽しんだ後は、さらにこってりした味つけの原作小説が読みたくなってしまうに違いない。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2019年7月号掲載〉