◎編集者コラム◎ 『バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課』松嶋智左

◎編集者コラム◎

『バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課』松嶋智左


『バタフライ・エフェクト』編集者コラム
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 勤め人の引き際、ということを考えることがあります。いずれ来る退職の日までに、何を成せるのか、何を残せるのか。松嶋智左さんにお会いしたときに、お伺いしたのは、「警察官の引き際って、どんな感じなんですかね」ということでした。

 松嶋智左さんは、元警察官で、日本初の女性白バイ隊員でもあります。現在、警察小説を中心に作品を精力的に発表し、注目を集める作家となりました。女性として、また警官として、一つの区切りが見えてきたときに思うこと。松嶋さんが書いたら、絶対面白いものになる。お話ししていてそう確信しました。

 そして出来上がったのが今作『バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課』です。

 主人公の明堂薫は定年退職を目前に控えたタイミングで、県警警務部に新設された「事件課」に配属されます。警察官人生に穏やかに幕をひこうと思っていた矢先の異動。若い頃のたぎるような情熱はもはやなく、若手とのジェネレーションギャップもあり、憂鬱な気分さえ漂います。一方プライベートでは独立した息子と時々会うことが息抜き。夫とは、すでに離婚して長い。仕事に血道を上げ、家庭を顧みなかった結果、夫は他の女との家庭を作ることを選んだのです。そうさせてしまった自分への嫌悪は、いまだに抜けない……そんな女の晩年への屈託も、リアルな手触りをもって描かれます。しかも、それが薫だけではないのが面白いところ。受験生の娘との関係がうまくゆかず悩む母親。自分の彼氏のことを明るく話す若手に、苛立ちを募らせるエリート女性警官。

 そんな彼女たちがあたるのは、所轄で起きた若手警官の自殺の捜査。仕事への熱量も、資質もばらばらなメンバーを、薫はどうまとめ、捜査を進めていくのか。マネージメントの部分を描いているのも、本書の面白さのひとつです。

 折に触れて噴出する、警察官としての正義、矜持がまたひとつの読みどころ。胸が熱くなるシーンも多く、原稿を初読した時は、その感動にしばし余韻に浸ったものでした。

 警察小説ファンの皆さんにはもちろん、女性読者、とくに働く女性には共感できるところがたくさんあるはず。サスペンス、アクションも満載でエンタメ的魅力も満点。おすすめです。

──『バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課』担当者より

バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課

『バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課
松嶋智左

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