◎編集者コラム◎ 『朱より赤く 高岡智照尼の生涯』窪美澄
◎編集者コラム◎
『朱より赤く 高岡智照尼の生涯』窪美澄

本作に出会うまで、高岡智照尼のことを知りませんでした。窪美澄さんのエッセイによると、「智照尼の人生を描いてみませんか」と提案をしたのは、単行本の担当編集者である上司でした。どんな経緯があったのかなと、ずっと気になっていました。
サイトに載せる本作の紹介文が書けないと、その上司にメールで伝えたことがありました。ひと言で表すにはあまりにも困難の多い智照尼の人生を、窪さんの筆致は押さえながらその行動や折々の感情を余すことなく描いています。それをまとめる言葉を見つけられずにいました。上司は、ヒントでも正解でもなく依頼の経緯を教えてくれました。
週刊誌の編集部に在籍中、智照尼が亡くなった記事を読み、取材に行ったこと。文芸の部署に移り、没後二十年以上経った頃、ふと窪さんの筆で智照尼を書いてほしいと思ったこと。ごくたまに智照尼のことが頭に浮かび、いつか、自分が編集をしているあいだに、この人に書いてもらいたいと理由もなく思う人が出てきたら、その時はお願いしようと思い続けていたのかな、ということ。
カバーは、田雑芳一さんに絵を、須田杏菜さんにデザインを手掛けていただきました。連載時から本作に関わってくださっている田雑さんの絵は、打ち合わせの前にまずは描いてみますとおっしゃったそのラフの時点で、須田さんも私も何も言うことがありませんでした。画面共有したラフに須田さんが文字を載せたり、色を敷いたりするのを眺めていたのですが、いつの間にか三人で作品の感想を語り合っていました。お二人ともお忙しいはずなのに。ずっとお話ししていたいと思いました。
解説は、テキストレーターのはらだ有彩さんにご執筆いただきました。『「烈女」の一生』で歴史に名を残す女性たちの生涯を新たな視点で紐解かれたはらださんが、本作の主人公・みつの人生をどのように読んだか、ぜひお読みいただきたいです。
このコラムもうまくまとまらないまま終わりそうで、それはまとめるな、考え続けろということなのかなとも思いますし、折に触れて考えています。
単行本が刊行された後、上司は窪さんと一緒に祇王寺を訪れ、智照尼の墓前に手を合わせたとのことでした。本作のことと智照尼のことを考え続ける私も、祇王寺を訪ねたいと思っています。
──『朱より赤く 高岡智照尼の生涯』担当者より