物語のつくりかた 第1回 中島かずきさん(劇団☆新感線/劇作家・脚本家)

中島さん

今号よりスタートする「物語のつくりかた」では、小説に限らず、さまざまな物語の紡ぎ手にその創作の裏側を伺う。第1回目は劇団☆新感線の座付き作家、中島かずきさん。2017年3月、東京・豊洲にオープンしたIHIステージアラウンド東京のこけら落とし公演に選ばれたのは、劇団☆新感線の代表作『髑髏城の七人』だった。しかも1年3ヵ月にわたるロングランで、シーズンごとに「花」「鳥」「風」「月」と「極」の5つのバージョンを上演するという異例なもの。1990年に産声を上げた『髑髏城の七人』は、幾度も再演され進化を続ける人気作だが、シーズンの締めくくりとなる『修羅天魔〜髑髏城の七人 Season極』は、新たに台本を書き下ろしたという。

『修羅天魔』の主演に天海祐希さんを迎えることは2年くらい前に決まっていました。従来の『髑髏城の七人』は捨之介を中心とする物語ですが、それを女性の天海さんが演じるのは現実的に無理がある。そこで、主要登場人物の一人、極楽太夫が実は鉄砲衆である雑賀衆の出身という設定を活かして主役にしよう、と。主役が変わり、視点が変わることで構成も台詞もがらりと変わる。だから同じ『髑髏城〜』ながら『修羅天魔』は完全新作です。捨之介も出てきません。群像劇、チャンバラの印象が強い本作ですが、『修羅天魔』は古田新太演じる天魔王と極楽太夫の愛憎劇。二人の関係性にスポットをあて、存分に芝居をしてもらえるようしっかり描きました。

『髑髏城〜』の初演は1990年の東京国際演劇祭で、その共通テーマが「新東京物語」でした。「東京とはなにか」を考えて、とのことでしたが、僕らは時代活劇をやると決めていた(笑)。「新しい東の都……江戸ができた話にしよう!」と都合よく曲解して、江戸城に徳川家康が入る物語ができたんです。

 でも、この初演は失敗(笑)。ストーリーも粗かったし、やりたいシーンや立ち回りの面白さにばかりこだわり、ガタガタだったんです。97年の再演で台本を作り直し、バラバラだったパーツがうまく合って、本作のスタイルが確立しました。

 その後2004年に古田新太主演の「アカドクロ」版、七代目市川染五郎さん主演の「アオドクロ」版を上演しました。11年には小栗旬さんを主演に再々々演し、キャストも全体的に若返りました。この「ワカドクロ」版には、当時の若者の間にあった閉塞感を盛り込むことができ、新しい「髑髏城」が誕生したという可能性を感じましたね。

 今回の「花・鳥・風・月」も主役はそれぞれ違う俳優が演じました。「花」は小栗さんによる捨之介で「ワカドクロ」の完成形を目指しました。「鳥」は阿部サダヲさんを迎え主人公を忍びにし、リベンジャーとして懸命に闘う男に書き替えました。「風」は松山ケンイチさんが初期版の仕掛けである一人二役を受けてくれ、復古的なものに。「月」は映像や2・5次元作品で活躍する俳優陣と共に「上弦の月」「下弦の月」の2つのチームで交互に上演し、新しいものを作ろうと。キャスティングの段階でプロデュースの意図が明確だったので、それぞれにあてて新しい提案をしました。見直すごとに新発見があり、サブキャラクターの心理など丁寧に作り直したところもあります。

プロットを作っては壊す

 物語を作る足腰は、編集者時代に培われました。大学卒業後に双葉社に入り、新感線作品を書き始めたのと同時期に「weekly漫画アクション」に配属され、国友やすゆきさんと『JUNK BOY』という連載を起こしました。毎週長時間打ち合わせをして二人でプロットを作っては壊し、アイディアを出しては直す……という積み重ね。物語の作り手としての足腰を鍛える訓練になったし、作品のヒットにより「自分の感覚が間違っていなかった」という自信にもなりました。

 昔から伝奇活劇がすごく好きで、山田風太郎さんや半村良さんをよく読みました。歴史の裏読みというか、自分なりに解釈していくのが面白い。特に『髑髏城〜』は隆慶一郎さんの『吉原御免状』に影響を受けています。書きたいと思っていた人物造形がこの中にあって、初めて読んだときは「うわーっ」と思いました(笑)。

 20代のころから自分はアレンジャーだと思っていたんです。神話や古典にも通じる物語の流れをどう解体し、再構築して面白くするか。どの作家にも共通すると思うのですが、何を書いても結局は〝自分〟に帰着する。自分の中にあるテーマだけに頼ると煮詰まってしまうので、外から題材を取り入れ、独自のアイディアを練り込んでいくことで、オリジナリティが出るんじゃないでしょうか。アイディアは、ずっと読んだり観たりしてきた歴史上の出来事や伝承、その登場人物など、好きなもののストックから出てきます。

 最近、観客の皆さんが『髑髏城〜』の様々なバージョンに登場するキャラクターでファンアートを楽しんでいるのが面白くて。「花・鳥・風・月」の捨之介四人が集まったら、こんな会話をするんじゃないかな、とか。思えば初演から7年ごとに再演を重ねて30年近く経ってしまったわけで、こういう古典に拠るような遊びをしてくれるのは、とても嬉しいし楽しい。その中に、また新しい気付きがあったりもするわけです。まあ、今回の5公演で、35年分作った計算になるので、演出のいのうえひでのりとも、「もうしばらく『髑髏』はいいよね」って言っているんですが(笑)。

(構成/奥田素子)

中島かずき(なかしま・かずき)

1959年生まれ、福岡県出身。立教大学卒。85年より劇団☆新感線に参加、以降座付き作家として多くの作品を手掛ける。2003年、『アテルイ』で第2回朝日舞台芸術賞・秋元松代賞、第47回岸田國士戯曲賞を受賞。代表作に『阿修羅城の瞳』『朧の森に棲む鬼』など。近著に『中島かずきのマンガ語り』(宝島社)がある。

 

(「STORY BOX」2018年2月号掲載)

 

関東荒野に現れた渡り遊女の極楽太夫(天海祐希)。彼女こそかつて織田信長に最も信用され愛された凄腕の狙撃手だった。折しも関東では髑髏の仮面で素顔を隠した第六天魔王(古田新太)が率いる関東髑髏党が豊臣秀吉の天下統一を阻まんとその勢力を広げていた。修羅の道を行く女と天魔の世を作らんとする男。二人の奇しき縁の歯車が回り出す……。

▼公式サイトはこちら
http://www.geki-cine.jp/dokuro-jo/

ONWARD presents 劇団☆新感線『修羅天魔〜髑髏城の七人 Season極』Produced by TBS 作 中島かずき 演出 いのうえひでのり 出演 天海祐希/古田新太 他 公演期間2018年3月17日(土)〜5月31日(木) チケット発売 2018年1月21日(日)10:00〜 会場 IHIステージアラウンド東京(豊洲)

月刊 本の窓 スポーツエッセイ アスリートの新しいカタチ 第9回 RENA
本の妖精 夫久山徳三郎 Book.44