「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第21回

「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第21回
唯一無二の世界観で今大注目のお笑いコンビ〝男性ブランコ〟。そのネタを作る平井まさあきさんの脳内は一体……? たっぷりの妄想をふりかけた、おいしいおいしい平井さんの日常をお楽しみください!

21.「宇宙ってなんだなんだ」

 4月現在、ニッポン放送×ヨーロッパ企画の舞台『リプリー、あいにくの宇宙ね』の稽古真っ只中であります。とある宇宙船内で巻き起こるトラブルに次ぐトラブルに対して対処に次ぐ対処をしていく対処コメディ。脚本・演出を手掛けた上田誠さんの真骨頂である真芯を捉えたゴギゴギバギバギの喜劇であります。

 脚本の中にはSF映画のオマージュであったり、宇宙ってこんなところなのかもしれない、こうであったらいいなあ~などのロマン的解釈、宇宙について現時点で実際に考えられている説がふんだんに盛り込まれていて、僕は知らないことばかり、ふえ~、ふえ~と、ちょっとばかり笛過ぎる感嘆の音を発しています。

 僕は地球の海の奥深く、深海という場所に興味があります。そこは光も届かぬ、生命が生きるには過酷すぎる環境。そんなところでも、あらゆる生存戦略を駆使して生き抜くヘンテコな生き物が生息しています。ヘンテコな形態に、ヘンテコな習性、ヘンテコな住居など、ヘンテコの中のヘンテコな彼らに、僕は惹かれて仕方ないのです。無論、深海の生き物の目には我々人間こそヘンテコな生き物に映るのかもしれませんが。

 だから、そんな生き物はいないであろう宇宙に対して、今まで興味を持つことはありませんでした。しかし、今回の舞台を通して、宇宙への興味の芽がにょきりとにょきってきている自分がいたのであります。

 そもそも、地球がある太陽系が属しているのは天の川銀河というそうです。この銀河の中には太陽のような恒星が およそ2000~4000億個あると考えられています。そんな莫大なる星々の中で生き物がいる星が地球だけなんて、それこそ不自然な話でしょう。さらに天の川銀河のような銀河も無数に存在しています。もうこうなってきたら可能性は無限大です。生命とかどうとか、時間という概念も超越した何か、我々人間が認識すらできない領域のものがいても何らおかしくない。

 なんと果てしなく、恐ろしくなるほど、巨大で強大なロマンが渦巻いているのでしょうか。小さな地球という星にちょこりんと立っている、これまた小さな一個人である僕には、ただただ小さな想像を巡らすことしかできません。

 

 ここは我々人類が暮らす天の川銀河のお隣さんのアンドロメダ銀河。地球からは約250万光年という距離に位置している。距離の単位で年とはなんだ。規格外に遠いではないか。ここまで遠いなら、「遠い」よりもしかるべき新たな単語を作ってほしいものだ。例えば「げざらい」とか。すまない。適当に言ってみただけだ。あまりにも遠すぎて適当に言ってみてしまった。

 しかしながら、そこは新開発したワープ装置でなんのその。ポヒュンとひとっ飛び。技術最高。科学凄し。このアンドロメダ銀河には恒星が約1兆個存在しているらしい。それに、我々と同じような生命体がいる、地球と似た惑星が無数に存在しているのだ。私はその一つの、まだ名前のない惑星へと降り立ったのである。

 私がどうして、そんな「げざらい」惑星まで馳せ参じたかというと、私はただ生命体というものにひどく興味があり、地球の生き物はすべてこの目で見尽くしてしまったため、それじゃあ、まだ知らぬ違う惑星の生き物を見ようと思って来たのである。やましい目的など何もなく、ただ見たいがためにやってきた。ただそれだけなのである。とにかく見をしたいのである。

 さて、この惑星には生き物の反応が無数にあるようだ。私が今手に持っている小さなデバイスにはソナー機能があるため、それぐらいの検知、もろっちょいである。すまない。「もろっちょい」が出てしまった。また言葉を適当に作ってみてしまった。まあお茶の子さいさいみたいな意味であろう。これぐらい適当に言葉を作ってみてしまうほどに、私の心はわくわくで躍っているということである。さて、さて、探索、探索。

 おおっと、あれはなんだろう。小さな毛むくじゃらのものが木の幹に張り付いている。刺激しないように静かに観察してみる。……あ、動いた。のそのそと木を登っている。手足のようなものが胴体から6本生えている。それらを器用に動かし、登っている。……あ、こっち見た。毛むくじゃらの顔らしき部分がこちらを興味深そうに見ている。顔の作りはどこか地球のショウガラゴのようでお猿さんに近い、しかし、大きな目の玉は4つあり、その下に小さな口がちょこんとついている。そしてヘビのような細く長い舌がチョロチョロと出ていた。

 嗚呼、総じてかわゆい。毛むくじゃらってかわゆい。わさわさと触りたい。しかしながら、野生の生命体に触ろうなんて言語道断である。こちらが触るだけだと思っても、相手にとってはただの危険な攻撃に他ならない。私はただ見をするだけである。直接的な接触は絶対にしてはならないのである。

 そうこうしている内に、かわゆし毛むくじゃらはこちらへの興味を失ったようで、木の上へと消えていった。

 ふうっと一息。触ることは厳禁でも、私の中でだけ、名前をつけてもいいかな。何にしようか。……よし決めた。あの毛むくじゃらの名前は「ケムラー」だ。もちろん、毛むくじゃらだから、ケムラー。安直だが、何より、かわゆいではないか。次に出会ったら心の中で「ケムラー」と呼ぶことにしよう。

 そして、私はずんずんと森のように植物が生い茂るところを進む。茂みをかき分け、かき分け進む。すると、遠くの方からずんずんと大きな足音が聞こえてきた。これはなかなかの大物かもしれない。用心しなければ。私は音を出さないように慎重に、足音がする方へとゆっくりと進む。

 ほあ! なんだ、あれは。なんと巨大な。そしてビッグでラージでヒュージ。全部大きいという意味だ。すまない。ちゃんと皆さんに伝えなければ。その大きな生き物は、地球上のものに例えるならば、蟹のようだ。全長はおよそ10メートルほどはあるだろうか。蟹と異なるのは、二足歩行をしていて、ちゃんと前へ進んでいる。すらっとした足2本である。足の部分だけで8メートルはある。蟹のようだと判断したのは、2本ある手はまさしく大きなハサミの形をしていたからである。ボディが甲殻類特有の殻で出来ているようだ。いわゆる外骨格である。そして、その大きなハサミを器用に使い、木の葉っぱを切り取り、頭の天辺に運んでいる。そこに口があるのか。私は小さなカメラ付きドローンを取り出し、上空から観察してみた。……ほお、やはり、頭の天辺に口らしき空洞があり、そこに葉っぱを次々と放り込んでいく。植物食性ならば、私が襲われる心配はとりあえずないだろう。だが、食事の邪魔をしようものなら、どんな危険があるかわからない。ここは早々に立ち去る方がよいだろう。

 かっこいい。私は素直にかっこいいと思った。何か、ガンダム的なニュアンスであの生物に乗り込んでみたいとさえ思った。せっかくだから彼にも名を授けよう。……よし、決めた。「カニサム」だ。理由はもちろん、ハンサムなカニだから、「カニサム」。我ながらなかなかそのままネーミングセンスである。

 おや、大きな湖に出た。やはり、水というものはどこの星にもあるのか。栄養分を蓄えておくために液体というのは適している形なのかもしれない。

 むむむ、むむむん。湖のほとりにペリカンのような水鳥がいる。というか完全に地球に生息しているペリカンだ。こんなにもペリカンならば名前は「ペリカン」にするしかないってほどにペリカンである。地球上でもこのような現象はある。離れた土地なのにもかかわらず、その土地の環境、食性、繁殖法などが似通っていたら、その姿が似てくるというものである。この現象を収斂進化というそうだ。

 見た目は完全にペリカンだが、よく観察してみたら異なる点はあるはず、私は興味をそそられ、できるだけ近付こうとした。その瞬間。

 湖の中から巨大な芋虫がざばーっと出てきた。カニサムよりもっと巨大である。20メートルはあるかもしれない。その巨大芋虫がこちらに身をくねらせながら、その大きな口を開け、襲いかかってきた。

 ……間一髪。私は足につけていたブースターで森の方へ、緊急離脱した。這々の体とはこのことか。今のは本当に危なかった。足のブースターがなければ今頃はあの芋虫の胃袋の中だ。いや、襲われる時に一瞬見えた、芋虫の口の中に綺麗に並んでいたドリルのような歯に全身を砕かれていただろう。それにしても危なかった。もう一度湖のほとりへ行ってみるとあのペリカンがさきほどと同じ場所にいた。陸地にいるペリカンをよく見ると、足から湖の水面へ、1本のロープのようなものが伸びていた。なるほど、これは釣りだ。そしてあのペリカンは疑似餌なのだ。いわゆるチョウチンアンコウスタイルである。あのペリカンで獲物を寄せ付け、そこをあの芋虫が襲いかかる。私はその疑似餌にまんまと騙されたのである。生き物凄し。私の命を食そうとした相手ではあるが、ルーティンワークである名付けはせねばなるまい。ペリカンの疑似餌で獲物を寄せ付ける超巨大な芋虫だから。……よし、決めた。「危険芋」だ。ペリカンとかを名前に入れる余裕なんてない。完全に人間目線だが、決めたんだから仕方ない。「危険芋」と呼ぼう。

 それにしても巨大な危険芋であった。ん? あれは芋虫なのか。ということは、あれはまだ子供? ということは、危険芋はまだ変態するというのか。芋虫が蝶や蛾に変態するように。いや、あれが成体の可能性だってある。

 すると突然、辺りが暗くなった。この星ではこんな急に夜が訪れるのか、まあそんな星だってあるだろうと、空を見上げた。

 なんと生き物とは面白いものなのだろうか。

 バアサ、バアサ。大きな羽ばたきと、強風が私を襲ったのだった。


平井まさあきさん

平井まさあき[男性ブランコ]
1987年生まれ。兵庫県豊岡市出身。芸人。吉本興業所属。大阪NSC33期。2011年に浦井のりひろと「男性ブランコ」結成。2013年、第14回新人お笑い尼崎大賞受賞。2021年、キングオブコント準優勝。M-1グランプリ2022ファイナリスト。第8回上方漫才協会大賞特別賞受賞。趣味は水族館巡り、動物園巡り、博物館巡り。


「妄想ふりかけお話ごはん」連載一覧

◎編集者コラム◎ 『ふくふく書房でお夜食を』砂川雨路
TOPへ戻る