飲みながら読みたいおつまみ小説
お酒と本とおつまみ、私の三種の神器です。本もおつまみも甘いだけじゃなくしょっぱいところもある、甘さとしょっぱさがお互いを引き立てるようなものがぐいぐいお酒が進みます(笑)。今日はシンプルなのに読み応えもある、飲みながら読むのにぴったりな小説とお酒とおつまみを3つ、ご紹介します。
『センセイの鞄』川上弘美(文春文庫)。高校の恩師と生徒。名前も思い出せないセンセイと、ツキコさんは酒場で顔を合わせるようになる。変えられも埋められもしない、年の差と互いを知らぬ過去はあっても、どこに行っても安定感のある空気の中で二人の晩酌は進み、美味しいお酒と季節を感じる空間になる。ゆっくりゆっくり惹かれ合い「正式なお付き合い」をするようになった二人の言葉のやりとりは、じんわりと心を熱くさせる。年の差も過ごした時間も好きの気持ちには敵わない。よく冷やした佐賀の日本酒・鍋島と、くし切りにしたトマトとお塩とどうぞ。何が起こるか分からないから、先の人生が楽しみになっていく。
『あつあつを召し上がれ』小川糸(新潮文庫)。食をめぐる短編集の「いとしのハートコロリット」というお話にパーラーが出てくる。気の利くボーイとハイカラ料理、しっかり冷やされたシャンパン。主人公の珠美さんが若い時にショー造さんと出会い恋に落ちた場所。ショー造さんもパーラーもなくなってしまっても、珠美さんはその中でしか生きられない。時の流れの残酷さと、めくるめく思い出と、愛する人。この物語は美味しい記憶と愛した記憶は命絶えるまで心にあり続けることを教えてくれる。キリッと冷やしたアルパカ白ワインとナッツ入りのチーズとどうぞ。あの恋を思い出してしまうかも。
『ジュージュー』よしもとばなな(文春文庫)。街のハンバーグ屋のジュージューはこの世に二つとない、唯一無二の空間。店を切り盛りするみっちゃんとパパと幼馴染の進一は、命をつなぐ仕事をしている。お店に集まる人は変わり者が多いけれど、みっちゃん達はその人達を温かく包み込む。人生で何も起こらない人はいなくって、その事実とどう向き合い、受け入れていくのかを優しく諭してくれる物語。キリンラガーの大瓶と、ニンニクたっぷりサイコロステーキとどうぞ。生きる力が湧いてきます。