オフビートな小説3選
アウトローやオフビートな小説は、えげつない描写や目を背けたくなる場面が多々ある。しかしそれは紛れもなくこの世界で起きている出来事であり事実であり、実は日常なのだと思う。そのような描写でしか表すことの出来ない人間の造形や世界の在り方、そのオフビート感覚が顔を出した瞬間、それを目撃した瞬間を読書の歓びと言うのだと思う。エンターテインメントとして成り立っているならば尚更素晴らしい!
『血の弔旗』藤田宜永(講談社)。根津は自分の雇い主の屋敷に忍び込み仲間と共に11億円を盗む。繋がりを持たぬよう別々の人生を歩み4年後に山分けするが……。高度成長期にともない目覚ましく発展していく戦後の日本と、例え人を殺してでものし上がっていこうとする根津が重なる。戦中、戦後、高度成長期、バブル期と、日本の風俗を肌に感じられる描写も良い。利己的な根津はだが情に流される弱い部分もある。冷酷になり切れない根津の甘さ、弱さ、どうしようもなさ。これこそが暗黒小説の醍醐味である。
『悪果』黒川博行(角川文庫)。密かにビール小説だと思っている。朝っぱらからビールをガブ飲みし、捜査に行く。または行かずに金儲けになるものを探しに行く。大阪府警マル暴担当刑事・堀内。高い捜査能力を持ちながらも、シノギを見付けどう甘い汁を啜るのか啜れるのかしか考えていない悪徳警官だ。金、女、享楽……そちらにどうしても目が向いてしまうふがいなさ。光と闇の間のボーダーライン。光とまでいかなくても灰色と黒の境目。その境目を描いている本作に慰撫されるのである。ラストシーンの余韻も素晴らしい。ビールを浴びるように飲んでしまう夏の暑さと相俟って、焦りやもどかしさを自分のことのように感じる。そして、ただただ物悲しく切なく心に沁み渡るのだ、堀内の全てが。
『デブを捨てに』平山夢明(文藝春秋)。表紙からして尋常ではない。4作の短編集。どれも素晴らしいが表題作を。平山夢明の文章は国境がない。安易な共感を断固拒否、乾き切っているが故のきらめきが存在しているところがとても好きだ。正と悪は常に反転する。「うでとでぶどっちがいい」。借金のカタにデブを捨てに行く羽目になるというかなりシュールな設定だが、何故かロードムービーのような風通しの良さを感じる。デブ(27歳女性)の男気に惚れてしまう!