声なき遺体の声を聞く者たちの闘い
虫は苦手だ。けれどこの女の下でならば、助手として、シデムシの分別作業でも頑張れそう! と思わせてくれるのは内藤了『パンドラ 猟奇犯罪検死官・石上妙子』の男前な検死官"死神女史"こと石上検死官だ。
本書を含むシリーズにおいて特筆すべきは検死遺体の凄惨さにある(特に虫)。しかし、自然界において最も敏感に『死』の匂いを嗅ぎつけるのは昆虫、と作中にて説明されているように死体に群がる昆虫を調べることで、死亡時間や死亡場所など様々なことが炙り出せるらしい。今作ではまだ若かりし頃の本書を含むシリーズにおいて特筆すべきは検死遺体の凄惨さにある(特に虫)。しかし、自然界において最も敏感に『死』の匂いを嗅ぎつけるのは昆虫、と作中にて説明されているように死体に群がる昆虫を調べることで、死亡時間や死亡場所など様々なことが炙り出せるらしい。今作ではまだ若かりし頃の"死神女史"が自殺とされた少女の遺体に事件性を感じ、その謎に迫っていくのだが……。物語は事件の収束と共に思わぬ形でのカタストロフィを迎える事になる。
川瀬七緒『法医昆虫学捜査官』でも風変わりな女性の法医学者が活躍している。
現実の日本ではまだ発展途上である「法医昆虫学」だが作中で事件の捜査に試験的に採用されており、法医昆虫学者・赤堀准教授(三十六歳独身・丸顔の童顔でちびっこ)が様々な昆虫の声から、警官コンビは事件関係者を心理学的に暴き、事件の核心に迫ってゆく。火災現場から見つかった女性の焼死体には胃袋と食道がなく、腹部からは不可解なウジムシの塊(半熟状態)が見つかる。連続放火。発育の良すぎるウジムシ。被害者は何故、殺されたのか? 物語が進むにつれ謎ばかりが増えていき、先の見えない展開にページを捲る手が止まらない。パズルのピースをはめるように事件の全体像が見えだし、ラストは怒涛の展開が待っている。
ありとあらゆる生き物の"骨"に焦がれ、耽溺しているお嬢様と、そんな彼女を心配しながらも惹かれている平凡な高校生・正太郎少年コンビの、巻き込まれ型ミステリー、太田紫織『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』も標本士である櫻子さんが検死官の役割を果たしている。
骨を蒐集するためには手段を選ばない変人だが、博識な櫻子さんは他人の感情や情動を理解できない。そして真実を躊躇なく告げる。たとえその真実が哀しく残酷なものであっても……。事件の裏にある人の愚かさや弱さなどが丁寧に描かれており、櫻子さんに代わって、正太郎少年が様々な人々の哀しみにそっと寄り添ってくれる。