◉話題作、読んで観る?◉ 第17回「空母いぶき」
©かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/『空母いぶき』フィルムパートナーズ
原作:かわぐちかいじ『空母いぶき』(小学館「ビッグコミック」連載中・協力:惠谷治)/企画:福井晴敏/脚本:伊藤和典 長谷川康夫/音楽:岩代太郎/監督:若松節朗/出演:西島秀俊 佐々木蔵之介 本田翼 小倉久寛 髙島政宏 玉木宏ほか/配給:キノフィルムズ 木下グループ
5月24日(金)より全国ロードショー
▼映画公式サイトはこちら
https://kuboibuki.jp/
2014年から「ビッグコミック」で連載中のかわぐちかいじの同名漫画が実写映画化された。『沈黙の艦隊』『ジパング』などスケールの大きな作風で知られるかわぐち作品だけに、航空機搭載型護衛艦「いぶき」を中心に、イージス艦、潜水艦、ステルス型戦闘機が織り成す迫力あるミリタリーものとなっている。
航空自衛隊のエースパイロットだった秋津(西島秀俊)を初代艦長に迎えた「いぶき」は名目上は護衛艦だが、実質的には自衛隊初となる空母。国会や世論から厳しい目で見られていた。そんな折、国籍不明の武装勢力が日本領の孤島を占拠。演習中だった「いぶき」を旗艦とする海上自衛隊の第5護衛隊群は、東京にいる垂水総理(佐藤浩市)からの発令を受け、戦後初となる防衛出動をすることになる。
原作では自衛隊が交戦する相手は尖閣諸島に侵攻した中国軍となっていたが、映画では架空の国「東亜連邦」と設定をアレンジ。政治的に偏った視点にならないよう配慮しつつ、日本領に他国が攻め込んできたらどうなるかをシミュレーションしてみせている。また、原作にはないネットニュース記者(本田翼)やコンビニの女性店員(深川麻衣)らを登場させ、海洋上での軍事衝突が社会全体に大きな影響を与える様子も盛り込んでいる。
「いぶき」をはじめとする海上自衛隊の護衛艦隊と敵艦隊との攻防は、まるで詰め将棋のよう。襲い掛かる対艦ミサイルや魚雷の一発一発に対し、秋津艦長は冷静に対処。次の一手を予測しながら、戦局を展開していく。専守防衛を命じられている自衛隊員たちが、不利な状況をどう乗り越えていくかが見どころだ。
ひときわ印象に残るのは、敵戦闘機を対空ミサイルで迎撃するシーン。ボタンひとつ押すだけでミサイルが発射され、レーダー上からひとつの命が消えてしまう。最新ハイテク兵器の性能の高さと恐怖を同時に感じさせる。
本作を撮った若松節朗監督は、日航機墜落事故を題材にした『沈まぬ太陽』が高く評価され、2020年には福島第一原発事故を真正面から描いた『Fukushima50』の公開が控えている。骨太な若松作品に触れると、平和という名の日常生活を永続させるのは容易ではないことを痛感させられる。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2019年6月号掲載〉