◉話題作、読んで観る?◉ 第22回「閉鎖病棟 ─それぞれの朝─」
監督・脚本:平山秀幸/出演:笑福亭鶴瓶 綾野剛 小松菜奈 坂東龍汰 平岩紙 綾田俊樹 森下能幸 水澤紳吾 駒木根隆介 大窪人衛 北村早樹子 大方斐紗子 村木仁 片岡礼子 山中崇 根岸季衣 ベンガル 高橋和也 木野花 渋川清彦 小林聡美/配給:東映
11月1日(金)より全国ロードショー
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現役の精神科医でもある作家・帚木蓬生が1994年に発表した小説『閉鎖病棟』の映画化。精神科病棟を舞台にした重い社会派作品と思われがちだが、『ディア・ドクター』以来10年ぶりの映画主演となる笑福亭鶴瓶の温かみのある演技によって、後味のよい人間ドラマに仕上がっている。
郊外にある精神科病院に長期入院するさまざまな患者たちが登場するが、彼らの多くは心の病の問題以上に、どこにも行き場所がないという切実な事情を抱えていた。患者たちにとっては、閉鎖病棟は社会に残された最後のセイフティーネットでもある。
秀丸(笑福亭鶴瓶)は死刑囚だったが刑の執行が失敗し、車椅子が手放せない体になりながら、あらゆる施設をたらい回しにされてきた。幻聴に悩まされるチュウさん(綾野剛)は家族とは疎遠となっており、女子高生の由紀(小松菜奈)は義父からの虐待に苦しみ、家庭内に居場所がない。入院患者たちはお互いに支え合いながら、病院内の工房で陶芸に励むなど穏やかな日々を過ごしている。
物語は後半から一転。病院の敷地内で殺人事件が起き、秀丸は再び法廷で裁かれることに。ユートピアのような平和な時間は終わりを告げ、チュウさんたちは厳しい現実世界と向き合わざるを得なくなる。それぞれの理由から病棟を出ていくことになるチュウさんや由紀が下す決断に注目したい。
原作に惚れ込み、脚本から手掛けた平山秀幸監督は、親子間におけるDV問題を扱った『愛を乞うひと』や下級武士の生き様を描いた『必死剣 鳥刺し』など市井に生きる人々の暮らしをカメラを通して見つめてきた。タレントとして多忙な鶴瓶に手紙を送ることで出演を快諾させるなど、11年越しで映画化に漕ぎ着けた。スタジオ撮影ではなく、長野県にある国立病院機構が運営する精神科の専門医療施設でロケ撮影することで、病棟内のリアルな空気感も映し出している。
秀丸、チュウさん、由紀は、年齢差や障害に関係なく、実の家族よりも太い絆で結ばれていく。血縁にこだわらない新しい家族像、これからのコミュニティーの在り方を考えさせるとても身近なドラマだといえるだろう。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2019年11月号掲載〉