今の合コン事情をよくわからずに

内田……『ワンナイト』は、合コンを舞台にした小説ですが、まず大島さんが合コンをテーマに選ばれたきっかけを教えていただけますか？

大島……今まで編集担当は女性が多かったのですが、連載をすることになった「ジンジャーエール」の編集担当が男性だったんです。彼から恋愛話を聞く機会があり、三十代の恋愛事情が頭に残っていたせいもあって、合コンを舞台にした小説を思い浮かびました。男性の担当者さんなら、合コンに参加した男性を語り手にしても、男性目線できちんとチェックしていただけるかなと思いましたね。

佐藤……第一話では、義妹・歩のために合コンをセッティングした鏡子の視点で語られています。三十五歳になる歩は、腐女子と呼ばれるような女性ですが、恋愛にあまり興味がない歩が、まるで自分のことのようだなと思って痛かったです（笑）。

内田……その合コンには歩のほかに、バツイチの瀬莉と結婚願望の強いさなえも参加しています。人から聞いたことのある合コンの話と重なる部分も多かったのですが、誰かモデルになっている方はいますか？

大島……モデルもいませんし、合コン自体も私の体験ではないんですよ（笑）。今の合コン事情をよくわからずに書いたのですが、合っているのか心配もありました。

佐藤……登場人物たちと世代も一緒ですし、まるで自分の周りにいる人たちの話を聞いているようで生々しかったので、モデルがいないと知って驚きました。結婚したいと思っている男性の友人が合コンに行ったら、完全にお見合い状態で、趣味で盛り上がるというよりも品定めされたなんて話もありましたよ（笑）。

大島……この小説では、結婚はしてもいいし、しなくてもいいというスタンスで書いています。必死になっても、ちょっとしたことでうまくいったり、うまくいかなかったりする。結婚を目標にして努力をすれば、必ず叶うというものでもないんですよね。

内田……合コンをセッティングした鏡子も夫・義弘と会ったのが合コンだったというのはいいですね。歩たちが合コンをする場所が義弘のステーキハウスというのは、なにか意味があるんですか？　草食系男子としては、ステーキハウスは肉食系女子のイメージに合っていました。

大島……鏡子が義弘との思い出を語った時に、義弘が作ったカツサンドを食べるシーンが出てきたんです。レストランで修業していた義弘が独立したら、ステーキハウスをやるのかなと思っただけですよ（笑）。

とにかく一編一編を楽しんでほしい

佐藤……第二話からは、合コンに参加していた人たちの視点に変わっていきますが、登場する順番は決められていたのでしょうか？

大島……鏡子の話を書き始めた時点で「ワンナイト」という物語の世界がきちんと出来上がっていたので、その世界から見えるものを拾っていくように書いていきました。本当は語り手が男女交互に出てくるようにしたかったんですが、順番にやろうと思っても、次に書きたい人が出てきてしまって、それに逆らうことなく書き進めていきました。
　この小説では合コンという出会いの場を設定してあるので、登場人物が物語に参加している状態で話が始まっています。とにかく一編一編を楽しんで読んでいただけたらいいと思っていました。

内田……歩はプログラマーの佑一郎と趣味が合い、ＳＮＳを通じて親しくなります。恋愛に進展しそうな予感に、歩の妄想が発揮されているところが楽しかったです。 　それでいて佑一郎が友人に連れられて行ったキャバクラの場面では、キャバクラ嬢に誉められて浮かれる男性を、佑一郎が冷めた目で見ている。この小説では熱いところと冷めたところが共存するのがいいですね。

大島……キャバクラに行ったことがなかったので、友人から聞いた話からイメージを膨らませています。経験のある方に訊くと、ほぼ間違っていないようなので、安心しました。

佐藤……佑一郎はイケメンなのに、男性としてどこか残念な印象を受けました（笑）。歩と親しくなっているのに、同僚に告白されるとぐらついてしまうなんて……。

大島……私の中では、佑一郎は自分がかっこいいことに気づかず、ちょっとずつ汚くなっていくような男性です。単行本の装丁には、合コンに参加していた六人が描かれていますが、それぞれの雰囲気がよく出ています。

相手の動き次第で思いがけない展開に

佐藤……その合コンに参加していた米山はさなえと親しくなり、何度かデートをしますが、米山は米山である事情を抱えています。さなえとデートをしていたのに、手を出していなければセーフという考えは、男のひねくれた根性が出ていてずるい。連絡をくれなくなった米山を、さなえがきっぱり切るところではすかっとしました。

大島……最初から細かいところまでは深く考えず、筆先のまま進めていくとこういう話になりました。どのキャラクターも気に入っていたので、それぞれの登場人物の人生をどう切り取っても書けると思いましたね。

佐藤……実はさなえには不倫経験があり、結婚相談所のカウンセラーのアドバイスで、癒し系女性として米山に接していました。さなえは結婚したいと、清々しいまでに本気で思っている女性なんですね。

大島……さなえは別に悪女でもなんでもないんですよ。異性に厳しい女性なので、結婚してくれる人なら誰でもよかったというわけでもないんです。

佐藤……女性陣は趣味だったり仕事だったりに夢中になってしまって、恋愛や結婚がうまくいかないケースでしたが、男性陣は頼りないのが原因で面白かったです。

大島……どの登場人物も一生懸命に生きているのですが、どこか少し愚かなところがあります（笑）。でも実際、賢くて完璧な人はいないですよね。

きらら……三十代ともなると、いろいろな経験を経ています。『ワンナイト』では元彼や元夫との穏やかなやりとりがあり、彼らの人生が決して無駄ではなかったと思えました。ある登場人物に関しては、関係を復活したらいいなとちょっと期待してしまいました。

大島……そんなふうにうまくいく結末なんて、書きながら想像もしていなかったので、びっくりしました。読者は希望を読みたくなるものなんですね。ある二人の間の出来事に、他の関係が力を及ぼすこともあります。相手の動き以外のことでも、思いがけない展開になるのが面白い。連載を終えて通して読んでみると、自分はコメディを書いていたのかと思いました。

内田……哀愁あり、笑いありの、心に残るコメディなんて、『ワンナイト』はレベルが高かったですよ。

人に出会わずに生きていくことはできない

内田……最終章では鏡子の娘・奈々の視点で描かれています。合コンが行われた当時は、小学五年生だった奈々が二十歳の大学生に成長していますが、参加したみんなのその後も含め、壮大な話になっていきます。

大島……最初に歩の視点ではなく、鏡子を語り手にしたので、その後合コンに参加した六人の視点だけで終わると物語の据わりが悪い気がしたんです。鏡子以外にも合コンに関係のない奈々の視点で書きたいと思ったんですが、でもこんなすごい話になるとは（笑）。

佐藤……奈々の成長した姿が見られるので、読者としても楽しかったです。腐女子である歩が選んだ生活を、「全然わからない」と思う歩の母親の気持ちは、私にもよくわかりました。

内田……いろいろな愛の形や、多種多様な人生もありだというのが、『ワンナイト』には詰まっていました。読み終えてから第一話の最初の一文「うまくいかないものだわね」という言葉に戻ると、合コンや恋愛に止まらず、人生そのものを語られているようでした。

大島……ありがとうございます。合コンに限らず、人に出会わずに生きていくことはできないですし、出会ってしまうと何か化学反応が起こらざるを得ない。もちろん苦しくてうまくいかないことも多いですが、すべてを拒絶してしまったら、楽しいことも含めて捨ててしまうことになります。私がこの小説を書いていて楽しかったように、それでも人との出会いは楽しいものです。

佐藤……この小説は、「合コン」小説としか言いようがないのですが、人生の奥深さを味わえるので、「合コン」という言葉だけで終わらせてしまうのがもったいないです。男性を落とせるテクニックが書かれているのかと誤解される方もいるかもしれませんね（笑）。

大島……毎回合コンをしているかといったら違いますものね。極力、合コンをしている間の描写は入れないようにしていました。合コンのノウハウは書いていないので、合コンに役立つことはありません（笑）。

内田……実は拝読しながら、「合コン」という言葉が何回使われているか数えてみたんです。内田調べによると、１１９回。２ページに１回は「合コン」が出てくる計算になるんですよ。これはもう「合コン」小説でしょう。「え、なに？」と思わせるフレーズなのも強みです。

大島……ええー、そんなに書いていましたか!?

佐藤……「合コン」小説で決まりですね（笑）。

大島……この小説でも誰がどう幸せになったのかはわかりません。三十代は体力があって今しかできないことをやれる時期ですし、婚活にばかりエネルギーを使わないほうがいい。周りからの圧力に追いつめられて、婚活に縛られている女性に読んでほしいですね。