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  熱烈インタビュー作家さん直筆メッセージPICKUP著者インタビュー書店員さんおすすめ本コラムコミックエッセイ!「本の妖精 夫久山徳三郎」

人生の黄昏時に自分の半生を振り返ると

増山……刊行前のゲラの段階で『もういっかい彼女』を読ませていただきましたが、実は誰が書かれた作品なのかわからない先入観のない状態で手に取ったんです。とても面白くて「この作家さん、すごくいい!」と編集担当の方に感想を送ったら、松久さんが書かれたとわかってお上手なわけだと納得しました(笑)。おいしい闇鍋を食べさせてもらった気分でした。

松久……ありがとうございます。ほかの書店員さんからは「この新人作家さんは伸びると思います」というお言葉をいただきましたよ(笑)。この小説には発売前からたくさんの書店員の方の感想をいただき、本当に嬉しかったです。

佐伯……私は松久さんの『天国の本屋 恋火』がすごく好きだったんです。あの作品のようなラブストーリーをイメージしつつ『もういっかい彼女』を読みましたが、もっとスケールの大きな小説に仕上がっていました。
 この作品はタイムスリップ物ですが、誰にでも少なからず人生をやり直したい気持ちってありますよね。

松久……30代の頃までは自分の人生にとくに疑問も持たずに生きてきたんです。でも厄年とはよく言ったもので、40歳を過ぎて心身ともにダメになった時期があって、よくよく自分の半生を振り返って考えると、やり直したいことがいくつもあることに気がつきました。人生の黄昏時に、今までやってきたことを肯定したい気持ちがある一方で、これで本当によかったのかと悩む気持ちもある。そんなことをぼんやりと考えていた時に、タイムスリップ物をさらに一捻りしたこの小説のアイディアが思い浮びました。

……小説の冒頭にバックギャモンというボードゲームのルールが出てきます。私はこのゲームのことを詳しく知らなかったのですが、どうしてバックギャモンを登場させたのですか?

松久……子供の頃に父親に教えてもらってから、ずっと好きなゲームでした。すごろくのようなゲームで上手な人でも負けることがありますし、単純に面白い。『もういっかい彼女』の物語を思いつく前から、いつか「バックギャモン」というタイトルの小説を書きたいと思っていました。ある時、バックギャモンの駒の動かし方を見ていたら、ゲームのルールがこの物語のメタファーになるように思えたんです。あまりメジャーなボードゲームではないので、バックギャモンのルールを提示しておきました。

好きな女性なら過去でも嘘でも知りたくなる

増山……雑誌ライターのタニケーとカメラマンの奈々は、20年前にポルノ小説を発表後、半隠居生活を送る佐々田という初老男性を取材します。まず佐々田が官能小説家という設定がいいですよね。官能小説家という言葉にどこか昭和感があるというか(笑)。

松久……昭和感ですか(笑)?

……私たちにはノスタルジックな響きがあっても、今の10代20代の子たちには、官能小説家という言葉はなにか新しいものとして捉えられるかもしれません(笑)。

佐伯……佐々田は死に別れてしまった10歳年下の菜津子という女性のことをタニケーたちに語ります。物語の前半では、図書館で働いていた彼女との出会いから闘病、別れまでが描かれていますが、菜津子は同性から見てもかわいらしい女性ですね。

増山……「私は菜津子のような人になりたかった」と佐々田が言うほど、菜津子は周りを明るい気持ちにさせる女性です。闘病で苦しいときでもくしゃくしゃと笑う健気な彼女に、とても好感が持てました。

松久……僕はどの登場人物もいろいろな角度から観察しているような意識で、きれいな女性をきれいなままに、かっこいい男をかっこいいままに、彼らを写実的に描いています。もしみなさんが菜津子をいいと思ってくださったのなら、それは本当に菜津子が素敵な女性ということですね。

きらら……生前の菜津子は「出会った頃に時間を巻き戻したい。そこからスタートして何度も繰り返したい」と言っていましたが、その言葉どおり佐々田はいつしか過去にタイムスリップできるようになります。

佐伯……姿は見えないものの、昔の自分には話しかけられることに気づいた佐々田は、昔の自分の力を借り、自分と出会う前の学生時代の菜津子を見守っていく。好きな人の過去を見たいと思うのは、女性よりもロマンチストな男性らしい発想で、これは純愛だなあと思いました。

松久……作中で佐々田も言っていますが、好きな女性のことは過去でも嘘でも知りたくなるものなんですよ。これが良いほうに向かうと純愛になりますが、悪いほうにいくとストーカー。ひとつ間違えばこの小説のサブタイトルは「時をかけるストーカー」ですからね(笑)。佐々田みたいな男をみなさんに受け入れてもらえるか、少し心配ではありました。

増山……佐々田の語り口にオヤジ臭さや哀愁が漂っていてよかったですよ。病気になった菜津子を甲斐甲斐しく介抱していますし、そもそも菜津子が好きになった男性なのだから、佐々田のことは嫌いじゃないですね。

ラストで何かを仕掛けたつもりはなかった

……タイムスリップするたびに、前に訪れた一年後の若い佐々田に佐々田は会うようになります。菜津子が『ソフィーの世界』を読んでいたり、本好きにはたまらない作品が随所に出てきますね。

松久……この話の筋立てを考えた後に、今まで読んできた本の中で、読書好きな方へのサービスカットになるような作品を探していきました。出てくる映画や小説は、すべてタイムトラベル物を選んでいますし、佐々田が猫を飼うきっかけも『夏への扉』ですからね。

佐伯……若い佐々田が佐々田の存在を信じるようになったきっかけが「阪神の優勝」を佐々田が予言したことだったり、昔実際に流行っていたブランド名なども出てきます。よくこれだけのことを覚えていらっしゃいますね?

松久……この作品に限らず、僕、物語の背景にある設定が好きなんです。登場人物たちの出身地や誕生日、どの年代だと何歳で何をしていたのか。一度すべて書き出しておいて、小説の物語に肉付けしていきます。綿密なミステリではないので気にしなくてもいいのかもしれませんが、これは僕の性癖ですね。菜津子も実家から通っていた学校まで実は決めてあるんですよ。

増山……佐々田と一緒に菜津子を見守っていくうちに、佐々田から聞く少し身勝手な話にイライラしたり、若い佐々田の様子が変わってきました。同一人物なのに、佐々田に苦言を呈する若い佐々田のほうがだんだんと格好良く見えてくるのが不思議でした。

松久……僕の中では佐々田は、抑えきれないピュアさもありながら少しスカしているような男で、小説の主人公としてはちょっと個性が弱いかなと思っていました。どちらの佐々田も褒めていただけると嬉しいですね。

……タイムスリップする過去が現在に近づくに連れて、菜津子の死にも近づいていきます。切ない気持ちで読んでいましたが、大どんでん返しがあってとても驚きました。謎やトリックも多く、この展開はまったく予想できなかったので、何度も読み返しました。

松久……今日、お三方がたくさん付箋を貼った本を持ってきてくださっていて感動しています。でもそんなにミステリ小説のような謎がありましたっけ(笑)?
 作者の僕は「佐々田のことをこんなにも想っていて、若い佐々田はいいヤツだなあ」とは思っていましたが、ラストで何かを仕掛けたつもりはなかった。詳細な年表を作って整合性を合わせながら書いていって、すとんと落とすところに物語を落としただけなんです。

書店員さんがいなければ今ここにいない

……猫好きからすると佐々田の飼い猫・ニャニャコのしぐさも気になりました。佐々田の語りの合間にニャニャコの描写が挟まれることで、物語にいいリズムが生まれていましたね。

松久……この物語の中には最初から猫とバックギャモンが存在していて、実はもともと「猫とポルノとバックギャモン」というタイトルをつけていました。でも今回初めてタイトルを編集担当の方に変えられてしまったんです(笑)。

佐伯……それはまた昭和な感じで『もういっかい彼女』になってよかったです(笑)。
 表紙に使われた猫写真は書店員からの投票で9枚の写真から選ばれたんですよね。私が選んだ写真とは違うものになりましたが、候補写真がどれもかわいかったです。

増山……うちの書店の中でもみんなで楽しみながら選びましたが、好みの写真がばらばらでした。

松久……僕の一押しとも違う写真が投票で1位になりましたね。今までは表紙も帯も自分主導で絶対に譲らなかったのですが、この作品はすべてを書店員さん、編集担当さんに委ねました。今日初めてみなさんと一緒に装丁を見たくらいです(笑)。

……この小説は40代、50代のビジネスマンにぜひ読んでいただきたいです。時代小説を好まれているおじさま方も、きっと読むときゅんきゅんするはず。少し人生に疲れている方たちの、自分の人生を見つめ直してもう一度奮い起つきっかけになる一冊だと思いました。

佐伯……私はやっぱり『天国の本屋』を好きだった方に手に取ってほしいですね。喪失の話ではあるけれど、読んであたたかい気持ちになってほしいです。

松久……そういえば『天国の本屋』は若い女性読者が号泣していると聞いていたのに、実際に読者ハガキを送ってくれるのは、おじさんばかりでしたね(笑)。
 僕は書店員さんがいなければ、今ここにはいません。岩手県のある書店の方が『天国の本屋』を発掘してくださったおかげで、この作品の認知度が上がりましたから。

増山……松久さんは書店発で話題になった作家さんの元祖ですものね。

松久……そんな風に出てきた僕が、最新刊では表紙の猫写真までみなさんに決めていただき、やっぱりそういう星のもとに生まれた書き手なんだとすごく思っています。書店員さんには感謝のひと言しかないです。

 

(構成/清水志保)
 

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