◎編集者コラム◎ 『かぎ縄おりん』金子成人
◎編集者コラム◎
『かぎ縄おりん』金子成人
「あたしは、お父っつぁんの敵を取りたいんだよっ」
どうですか、このすがすがしいまでの啖呵! 本作のなかで、担当編集いちばんのお気に入りのセリフです(お気に入りすぎて、帯の表4にも入れました)。
時は文政9年、11代将軍家斉の時代。主人公おりんは日本橋堀留にある駕籠屋の娘、花も恥じらう18歳……なのに、婿を取って商売を継がせようとする祖母の小言をかわしつつ、持ち前の正義感で町のいざこざには真っ先に駆け付ける始末。さらには目明かしに憧れて、捕縛の道具である、かぎ縄の練習にも余念がありません。
おりんが捕り物にこだわるのにはある理由が。父・嘉平治は地域の目明かしを務めていましたが、2年半前、神田明神の祭礼で何者かに足を刺されたのです。その傷がもとで足の自由がきかなくなり、悔しい思いをしていました。そんな父を見ていたおりんは、いつか自分も捕り物に加わり、父を刺した人物を見つけることを誓うのです。
おりんのまっすぐな心意気、悪者をかぎ縄でビシバシ懲らしめる姿はまさに痛快! さらに周囲の登場人物たちも魅力的です。祖母・お粂はチクチク小言を言いながらも店と家族を守るため一生懸命。幼馴染のお紋はいかにも大店のお嬢様でマイペース、駕籠舁き人足の面々も個性的。さらに担当編集のお気に入りはおりんの叔父にあたる太郎兵衛。40歳になるというのに、三味線や芝居にうつつを抜かし、絵や芝居の筋書きを売り込んではいるもののうだつが上がらず、一緒に住む千波という女絵師の稼ぎに頼るような男。ですが、その飄々としたキャラクターがどうにも憎めず愛らしい。こういう人、きっと何かに巻き込まれてしまうんだろうな……と思っていたところ、第2巻で、太郎兵衛さんをある事件が襲います!
さすが向田邦子賞受賞の脚本家、金子成人さんが紡ぐ物語だけあって、ホームドラマ的シーンの会話の楽しさは格別です。加えて「剣客商売」「鬼平犯科帳」でも見せてくれる悪漢との緊迫感あるシーンが織り込まれるのですから、笑いあり、涙ありのまさに金子成人さんの集大成と言える新シリーズとなりました。
ちらっと書いた通り、すでに8月に第2弾の刊行も予定されています。おりんの成長と、さらに魅力的なキャラクターたちとの出会いを、みなさんと一緒に楽しんでいきたいと思います。
──『かぎ縄おりん』担当者より
『かぎ縄おりん』
金子成人