いくつになっても人生は驚きと発見に満ちている! な3冊
軽やかな大阪弁と相まってとにかく気持ちがいい!
新しく時代が動くときは猛烈なエネルギーを必要とするものだ。それは「大衆の流れ」でもあり「強烈な個人」でもある。
『琥珀の夢』(伊集院静・集英社)の主人公はサントリーの創業者鳥井信治郎だ。明治十二年に生まれた彼は激動の日本近代化と共に歩んだといえる。そして、ウイスキー! ええ、ハイボールのおいしさにはお世話になっております。庶民に愛されるお酒のひとつのウイスキー。スコットランド産が有名だけどこれを日本人に合わせたおいしさでしかもお手頃価格につくり上げた凄い人なのだ。彼の生きた時代は関東大震災も戦争も起きている。そんな中社員を家族のように考え、職人たちと共に全身全霊で膨大な熱量をそそぐ仕事っぷりには目がくらむほどだ。根っからの大阪商人気質であらゆることを貪欲に吸収し猪突猛進なさまは軽やかな大阪弁と相まってとにかく気持ちがいい。困難も辛い別れもあるけれど全編通じて大活劇のような面白さ!
白塗りのハマのメリーさんを知っているだろうか。戦後アメリカに接収された横浜港近くの街角に立っていた米兵相手の街娼である。当時様々な理由でやむなく娼婦となった女性が多くいた時代。なぜか私も隈取のような真っ白いお化粧とやはり白いドレス姿の老女の写真を見たことがあったのだ。『ヨコハマメリー かつて白化粧の老娼婦がいた』(河出書房新社)の作者は映画監督の中村高寛さん。ひょんなことからメリーさんに惹かれ資金に苦労しつつ何年もかけて周辺取材を続け、ドキュメンタリー映画にするまでのノンフィクションである。私たち読み手は監督と共にメリーさんの背中を追いかけることになる。好意と嫌悪が混じる中同時に語られる戦後ヨコハマという街。一人の女性の数奇な運命は力強く復興した街の姿と重なる。それはやはりたくましく、生命力に溢れている。
『さよなら、田中さん』(小学館)の作者鈴木るりかさんはなんと十四歳。わかっていて読み始めたものの、途中からすっかり忘れていた。こんなに切ないのにふうわり笑えるのはなぜだろう。リアルにハングリーなお母さんを持つ花実の目線は常に冷静だ。けれど小賢しさなんてなく優しさをしっかり感じるのだ。鈴木るりかという作家はもう自分の足でぶれずに立っているようだ。
(「きらら」2018年2月号掲載)