ようやく甦った問答無用の面白本三作
品切れ、重版未定、絶版など、様々な理由で本は市場から消えてゆく。こうなると、本屋の店員がどんなに気を吐こうとも仕入れて売ることは叶わない。しかし稀に、新装化、復刊、まさかの重版といった慶事により、ふたたび売り場で展開するチャンスが巡ってくることがある。今回ご紹介するのは、ここ数ヶ月の間に長い不在からようやく甦り、いま売り場で猛烈にオススメしている問答無用の面白本三作品だ。
エルモア・レナード『ラブラバ[新訳版]』は、犯罪小説の巨匠がアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞を受賞した出世作を、田口俊樹氏が新たに訳した一冊。
かつてシークレット・サーヴィスの特別捜査官だった写真家ジョー・ラブラバが、憧れの女優ジーン・ショーと出逢い、彼女の窮地を救うために動き出す物語は、いわゆる"レナード・タッチ"と称される語りの妙が最大の読みどころだ。シンプルなプロットを彩る味わい深い会話や描写の心地よさに、ずっと浸っていたくなること請け合いだ。
鳴海章『ネオ・ゼロ』は、航空アクションファンなら誰もが絶賛を惜しまない名作中の名作。
北朝鮮の原子力施設爆撃を計画する米国の要請を受け、日本は新鋭機「新・零戦」を開発。操縦者に任命された元航空自衛隊の伝説的パイロット"ジーク"こと那須野治朗は、国の思惑や陰謀が渦巻くなか、ひとり死地へと飛び立つ。ついに迎えたクライマックスでジークが口にする「オレは戦闘機乗りだ。自分がナンバーワンのパイロットだと思っている。それを証明するために飛んだんだよ」という言葉にシビレない読者はいないはずだ。本作の前日譚『ゼロと呼ばれた男』(集英社文庫)とあわせて読むことを強くオススメする。
中西智明『消失!』は、新本格ミステリ全盛期、当時二十二歳の著者がミステリファンを瞠目させた傑作だ。
昨年、某書店の限定企画として復刊されたが、現在は"限定"が解除された。物語は、とくに接点のないように思われる三つの事件が描かれる。それぞれ共通するのは、犯人が異常なまでに憎悪する"赤毛"と不可解な死体の消失。ミッシング・リンクというとクリスティ『ABC殺人事件』が代表格だが、本作の企みもまた独創的で、世界的に見ても類のない一級の仕掛けが読者を鮮やかに欺く。
(「きらら」2018年3月号掲載)