短歌で呪おう! 昔のオトコへの未練と恨みを詠む、「元カレ歌会」
元カレに対する懐かしさや憎らしさ、ちょっとした未練を「短歌」に詠む“元カレ歌会”を開催。桃エロ乙女チック歌人・さかいまみさんに、恋に傷ついた女性たちの短歌を添削していただきました。
明治屋に初めて二人で行きし日の苺のジャムの一瓶終わる俵万智 |
P+D MAGAZINEの女性の読者の皆さま、忘れたい元カレはいますか?
この頃は、SNSで昔の恋人の動向も簡単に見られてしまいます。ひとたび新しい相手と幸せそうにしている元カレの近況が目に入れば、「もう会えないけど、どこかで幸せにしてるといいな」なんて美しくもほろ苦い感傷は消え、「うわ、新しい彼女3つ下かよ」と現実が襲いかかってくることでしょう。
思い出を、思い出のまま保存することがすっかり難しくなってしまった昨今。昔の恋人に対する懐かしさや憎らしさ、ちょっとした未練も、Facebookが見せてくる現実の前には霞んでしまいます。
しかし、そんな思い出を瞬間冷凍して、永遠に残すことができる方法がひとつだけあります。そう、短歌にすることです。
過去の恋を短歌にしよう! 「元カレ歌会」開催
(歌人・さかいまみさん)
そこで今回は、P+D MAGAZINE編集部(+恋に傷ついた過去を持つ女性たち)で「元カレ」をテーマに歌会(短歌を詠む会)を開催。できた短歌を、“桃エロ乙女チック歌人”の肩書きで、切ないながらもちょっとエロティックな短歌を詠まれている歌人・さかいまみさんに評価&添削してもらいました!
今回、歌を詠んでもらった女性陣は全員、短歌づくりはほぼ初めて。初心者の短歌がどんな風に生まれ変わるのか、編集部にお呼びした作者たちの「元カレ」エピソードと共にお楽しみください。
まず、短歌のルールをおさらいしよう
さかいさん:そもそも、「短歌」がどういうものなのか簡単に説明しますね。
短歌とは、五七五七七(三十一音)の韻律を持つ定型詩です。俳句には「季語」がありますが、短歌には季語はいりません。五・七・五・七・七をそれぞれ「初句」「二句」「三句」「四句」「結句」と呼び、各句の間には基本的にはスペースを入れず、続けて書きます。
編集部:なるほど。改めて短歌のルールがわかったところで、実際に集めた短歌を添削していただきます。よろしくお願いします!
SNSで発覚した元カレの「4股」
エピソード:
昔付き合っていた彼氏に4股をかけられていました。ある日、Instagramで他の女の子と写っている写真を見つけてしまい、「あれ?」と思ってその子の写真を辿っていった結果、芋づる式に彼の浮気がバレることに。最終的に、4人の女の子と関係を持っていたことがわかりました。最低な人でしたが、浮気に気づくまで1年も付き合ってしまいました。
(Wさん/大学生)
(オリジナル)
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講評
さかいさん:1首目からパンチのあるエピソードが……。大学生ってことは、もしかしてこれ、わりと最近の出来事ですか? それと、「相撲取り」というのは?
Wさん:何年か前ですね。「相撲取り」というのは、相撲の
さかいさん:あー! なるほど! 発想はおもしろいですね。ただ、唐突に「相撲取り」が出てくると、読むほうはエピソードがないと、なんのことかわからないかも。あとやっぱり、「4股」のインパクトは大事にしたいですね。
Wさん:うまく短歌に入れられなくて……。
さかいさん:ちょっと調べてみたのですが、相撲用語に「四ツ相撲」というものがあるんですね。4本の手が絡まり合って相撲を取る、という意味で。エピソード自体はおもしろいので、ここを入れ替えてみてはどうでしょう。
(添削後)
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自分が気持ちよくなったらそれで終わりなクズ男
エピソード:
アメリカで初めて付き合ったハーフの元カレがEDでした。こっちは立たせるために必死になってあげているのに、立つのは一瞬で、向こうは向こうで自分が気持ちよくなったら勝手に終わらせていたクズ男でした。
なにしろ初めての人だったので、男はベッドの上ではみんなこうなのかと思っていました。しかしその後、帰国するまでのすこしの間付き合ったアメリカ人がすごい人だったので、男は人によって全然違うなあというのを知るいいきっかけになりました。
(Aさん/OL)
(オリジナル)
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講評
さかいさん:ああ、こういう人ね……。女性は一度は味わったことがある気持ちかもしれません。
Aさん:クズでしたね。
さかいさん:その気持ちに反して、短歌はすこし後半が綺麗すぎるかもしれません。ついつい歌うときって美しい言葉を選びがちだと思うのですが、言葉よりも気持ちのほうを優先させるのも大切です。
そうじゃないと、嘘っぽくなってしまうので。Aさんがまだ憎らしく思っている、というのをふまえて詠み替えてみましょうか。
(添削後) |
大学を辞めたことと、浮気を同時に告げてきた元カレ
エピソード:
私が20代前半のころ、某SNSを通じて知り合った男性との話です。
付き合い始めて3ヶ月が経ったころ、「引っ越したから家においでよ」と呼ばれた私。二つ返事で家に行った私に彼が告げたのは、1浪して入学した大学を辞めたこと、そして「ミュージシャンになりたい」という夢への焦りからアルバイト先の女の子と関係を持った、ということでした。
あまりの衝撃にそのまま別れを告げて帰ってしまった私。しかし、今でも、「もっと何か彼のためにできたのではないか?」と後悔を抱えています。
(Tさん/編集者)
(オリジナル) |
講評
さかいさん:これは、このままでいいと思います。
Tさん:えっ! 嬉しいです。
さかいさん:このままで、十分気持ちが伝わってくるので。短歌って基本的に主語が「私」なので、歌のなかには「私」って入れなくてもいいんです。でも、この歌はあえて「私」と入れることで、思いが強調されていていいですね。文字の間のスペースだけ調整しましょうか。
(添削後) |
「もしもあのまま続いていたら」という空想
エピソード:
最近、小沢健二の新曲をよく聞いています。そのなかの、「もしも間違いに気がつくことがなかったのなら 並行する世界の僕はどこら辺で暮らしてるのかな」という歌詞にハッとしました。
別れたことを後悔している元カレはいませんが、もしもあのまま続いていたら、いまごろ自分は全然違う世界にいたのかなあ、とたまに考えてしまいます。
(Sさん/編集者)
(オリジナル) |
講評
さかいさん:これは「パターンB」というのが新鮮で面白いですね。この短歌を読む人たちがそれぞれ、自分だったらどうなっていただろうと想像できる。あのときあのひと言を言っていたら、全然違うふたりになってたかもというのは、誰しも思うことですよね。
Sさん:未練がある元カレはいないんですが、「もしかしたら、違うパターンもあったのかもしれないな」と……。
さかいさん:ひとつ直すとしたら、「やっぱ会おうよって言ってたら」の「会おうよって」で音読したときにリズムが止まってしまうので、ここですね。あと、「やっぱ」は口語なので、好みにもよりますが……「やっぱり」にしてもいいかも。それで、音を整えてみましょう。
(添削後) |
詠むということは、思い出すということ
最後に、作者たちとさかいまみさんに「元カレ」をテーマに短歌を詠んだ感想を聞いてみました。
思い出を短歌にしたことで、なんだかすごくすっきりしました。なんとなく、前の人とだらだら連絡をとったりしなくなりそうです。(Wさん)
嫌なこともむかつくことも、なんなら「殺したい」みたいな思い出もありましたが、短歌にすることで浄化された気がしました。(Sさん)
さかいさん:元カレって結局、自分が選んだ人ですからね。詠むということは思い出すということなので、いろいろあったとしても、歌に詠める恋愛だったなら、それは悪い恋愛じゃなかったんじゃないかな、と思います。
傷ついて転んで泣いて叫んでもそれは愛のせい悔しいけれどさかいまみ |
<終わり>
初出:P+D MAGAZINE(2017/04/03)