独り時間の癒しと楽しみ
『バー・リバーサイド』(吉村喜彦著)
二子玉川にある「バー・リバーサイド」。その名の通り多摩川を望む小さなバー。
店の大きな窓からは季節の移ろいや、河の表情がよく見える。
お客は様々、マスターの河原、バーテンダーの琉平が美味しいお酒と料理で毎夜あたたかく迎えてくれる。そんなバー・リバーサイドで繰り広げられる夜の日々を綴った連作短編小説。他愛もない会話から人生の機微にいたるまで、マスターと客の距離感がとてもスマートで心地よい。バリエーション豊富なカクテルの数々、良きタイミングで出される料理、とにかく、登場するお酒も料理も美味しそうでたまらない! 著者の酒の知識、酒を楽しむ心と溢れる愛を感じずにはいられない作品です。
『ランチ酒』(原田ひ香著)
「見守り屋」という、人もペットも関係なく、依頼があれば寝ずの番で見守る仕事をする犬森祥子。彼女の生活はこの仕事のため昼夜逆転している。ランチは彼女にとってのディナーであり、もちろんお疲れさまの晩酌でもある。仕事先で考えさせられることや彼女自身の抱える悩みも物語の軸ではあるが、行く先々で裡なる自分と話し合い今日のランチをどうするか悩む姿が何とも楽しい。
メニューに合わせて酒を飲む、ディナーと比べて時間の制限がランチにはあるもの。お酒と食事のバランスを考えてきっちり〆る。そんな彼女の食べっぷり、飲みっぷりに好感が持てます。
『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』(古内一絵著)
路地裏にひっそり佇むカフェ「マカン・マラン」。店主、元超エリートでドラッグクィーンのシャールさんの出してくれる料理は、来る人々の心を掴む。そして、シャールさんの言葉が料理と共に心に沁みてくる。『料理は人を癒す』この言葉に尽きる。仕事に、人に、疲れた時、心地よい場所で美味しい料理で楽しい時間を過ごす。最高の癒しです。
「一人で出掛ける」そこには予期せぬ出逢いがあり、自身を成長させてくれる場であったりもします。ふらりとご近所を探索したくなってきます。
(「きらら」2018年6月号掲載)