答えはいつも本の中にある

マカン・マランのようなお店が近くにあれば、と何度思っただろう。
書店員名前
成田本店みなと高台店(青森) 櫻井美怜さん

 平成が終わろうとしている。安室ちゃんも引退し、一緒にルーズソックスを履いていた地元の友人からの年賀状には「息子が中学生になりました」と信じられないことが書いてある。そうか、私達は大人になったのか。
大事にするね、と嘯いて卒業式にもらった第2ボタンをとっくの昔に無くしてしまったような私達には、「オトナの読書」がふさわしい。恋はいつでも清らかで美しいとは限らない。決して許されない相手を想うどろりとした愛憎を描いた『永遠の詩』(香月夕花)が秀逸だった。

永遠の詩
文藝春秋

 父親の再婚相手の美しい女性に惹かれてゆく主人公。どうしようもなく男を狂わせるこの義母の造形が素晴らしく、本を閉じた後も、作中で漂い続けるスミレの香りがいつまでも鼻の奥で燻っているようだった。

神さまを待っている』(畑野智美)はお金の物語だ。

神さまを待っている
文藝春秋

 大人になるとわかるのだが、ある程度の幸せはお金で買える。もちろん札束では手に入らないものもある。"禍福はあざなえる縄のごとし"というが、甚だ疑わしい。体感的には、不幸はまとめてやってくる。現代社会で飢えるような貧困は想像できないかもしれないが、親が経営する町工場が不渡りを出したわけでも、突然の事故で天涯孤独の身の上になったわけでもない、派遣で真面目に働いていたはずの女性が、ある日ホームレスになってしまうこの物語は、現代の日本ではたして本当にただのフィクションだといえるのだろうか。

 ついにマカン・マランシリーズ完結となる、『さよならの夜食カフェ』(古内一絵)も人々の心の傷に、温かい料理で寄り添う大人の心に染みる物語だ。

さよならの夜食カフェ
中央公論新社

 昼は社交ダンスで着るような華やかなドレスを売るお店が、夜になると体を厭う夜食をふるまう異国情緒溢れるカフェになる。店主はピンクのウィッグに風を起こせそうな長い付け睫毛のドラァグクイーン。見た目の迫力に気圧されてしまいそうだが、このシャールさんの作る料理がとにかく美味しそうなのだ。こんなお店が近くにあれば、と読みながら何度思っただろうか。マカン・マランは私の住むこの町にはないが、私達には本がある。私達の抱える悩みの答えはいつでも本の中にあるはずだ。そう考えれば本屋はマカン・マランなのかもしれない。

〈「きらら」2019年3月号掲載〉
思い出の味 ◈ 山口恵以子
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