あなたの知らない……お薦め本の世界
今年数えで41歳になるものだから、周りの勧めで近所の神社に厄払いに行くことにしました。どうやら厄というものは普段の暮らしの中で知らず知らず溜まっていくものらしく、知らず知らずに溜まっていくといえば、返事を出していない年賀状や借りたままの本、猫のために買ったクッションなんてもう何個目になるだろうか? そういえばその猫にしたっていつのまにか5匹に増えているのだから、なるほど厄払いというのも大切なんだなと思った次第です。思い返せばこの40年間、人から薦められた本だけは欠かさずに読んできたので、これも知らず知らずに溜まっているものの一つかもしれません。今回はそんな本の紹介です。
「おい、面白い本見つけたぜ」大学生のころ、中学時代からの友人がそう言って持ってきた本が『姑獲鳥の夏』(京極夏彦)でした。
当時ミステリは読まない主義だった私がミステリに開眼した1冊です。主人公のペダンチックな語りに引き込まれてしまいいつの間にか読む手が止まらなくなる内容で、ミステリ嫌いの人にこそお薦めの本です。ちなみにこの「おい、面白い本見つけたぜ」はその友人の口癖で、面白くてもそうでなくてもいつもこの言葉で本を貸してくれました。
社会人となり書店で働き始めたころ、職場の仲間と読書サークルのようなものを始めました。そこで企画したのが「お薦め本交換会」。そこで出合った1冊が後輩の薦める『掌の小説』(川端康成)でした。
音楽好きでロックな後輩がなぜ純文学? と思って読んでみると、思わず納得。一篇5ページ程度の短編集なのですが、日本刀のような美しさと切れ味の文章が、読むたびグサグサ胸に突き刺さる1冊です。
最後は、ノンフィクションしか読まない私の奥さんから最近薦められて読んだ1冊『羆嵐』(吉村昭)。
大正時代の北海道で冬眠せずに『穴持たず』となり人里を襲う羆とそれに振り回される人間。そして一人の老猟師。緊迫のドキュメンタリ小説です。野生生物に対し神へのそれにも似た畏怖の念を抱かせる迫力のある筆致。そして大自然の中で命をつないできた先人の強かさに心を打たれました。読み終わった後、今まで何とも思わなかった表紙の羆が怖くて、寝るときに思わず表紙を伏せてしまいました。