映像クリエーターの制作ノート 「あさひなぐ」 英 勉さん
僕は完全な受注型人間です。面白そうな企画のオファーがあれば、自分に合うかどうかは考えずに飛びつきます。今作の『あさひなぐ』も人気アイドルグループ「乃木坂46」主演で高校の薙刀部を舞台にした映画というので、最優先で引き受けました。
学生時代に柔道と剣道は経験していましたが、薙刀はまったく未知の武道。そこでまず東京武道館で行なわれた新人戦を見学しました。会場は女子高生たちでいっぱいで、稽古着はすごくかわいいし、颯爽とした格好良さもある。これはいいぞと思ったものの、試合が始まるやその考えは一変しました。当たり前のことですが試合中は面を被るため、顔が見えないわけです。せっかく乃木坂46が出演するのに、彼女たちの顔が試合中は分からない。原作コミックでは面が透けているんですが、実写ではそうもいかない。これまで剣道や薙刀を題材にした映画がつくられなかった理由が、ようやく分かりました(笑)。
クランクインまでの2か月間、乃木坂のメンバーと一緒に稽古場に通い、どうすれば映画として成立させられるかを考えました。僕も乃木坂のメンバーも薙刀初心者だったんですが、それが良かったようです。稽古場に毎日通うことで、基礎からきちんと学ぶ彼女たちの成長を目の当たりにすることができ、稽古終了後には台本の読み合わせを進めました。キャストとじっくりコミュニケーションを図ることができ、作品づくりに大きなプラスになりました。
撮影が始まり、中盤に差し掛かる頃には、面を被っていても、薙刀の動きを見れば、誰がどのキャラクターを演じているのかが分かるようになってきました。キャストそれぞれが原作と台本を読み込んだ上で、しっかりと考えながら稽古に励んだ成果です。
主人公の旭役を演じた西野七瀬さんは普段は控えめな性格で、僕に積極的に話し掛けてくるタイプではなかったんですが、ある日意を決したような表情で現われ、「試合のシーンも自分にやらせてください」と言ってきました。僕が「そのつもりです」と軽く返事をすると、拍子抜けしたようです。もっともったいぶって「よし分かった。試合のシーンも頼むぞ」と答えればよかったなぁと、悔やんでいます(笑)。
試合のシーンも、ほぼ本人たちが演じています。江口のりこさん演じる寿慶にサディスティックにシゴかれる夏合宿シーン、顧問教師役の中村倫也さんのアドリブトークに吹き出しているシーンなども含め、出演者みんなのライブっぽい魅力が詰まった作品になったと思います。原作のファンも乃木坂46のファンも、またどちらでもない方たちも青春映画として楽しんでもらえるんじゃないでしょうか。
とにかくしゃべる
冒頭でも触れたように、僕は受注型なので「心の奥底から湧き上がる熱い想いを形にしたい」というタイプのクリエーターではありません。そんな僕が普段から気をつけているのは、とにかくしゃべるということです。面白そうな作品を観れば、自分もああいうのをやりたいと周囲に伝えます。つまらない作品に出会ったときは、徹底的にダメ出しします。一般的にクリエーターって他人と自分を比べたりせず、他の作品の悪口も言わないものですが、僕は平気で口にします。批判するからにはその作品の構造をちゃんと理解していないといけないわけで、「自分だったら、こうする」といったそのときのアイデアは、後々の作品づくりに役立っていると思います。
僕は東北新社の社員でもあるんですが、社内でもよくしゃべっています。会社には上司、後輩、職場を辞めたがっている社員……いろんな立場の人間がいます。フリーだと、どうしても同世代のクリエーター同士で集まりがちで、作品を楽しんでくれる若い世代と感覚がズレてくるような気がするんです。僕にとってはいろんな人としゃべることが営業活動になり、創作のヒントにも繋がっています。
(構成/長野辰次)