◉話題作、読んで観る?◉ 第8回「検察側の罪人」
監督・脚本:原田眞人/出演:木村拓哉 二宮和也 吉高由里子 平岳大 大倉孝二 八嶋智人 音尾琢真 大場泰正 谷田歩 酒向芳 矢島健一 キムラ緑子 芦名星 山崎紘菜 松重豊 山﨑努/配給:東宝
8月24日(金)より全国ロードショー
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http://kensatsugawa-movie.jp/
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なぜ冤罪事件は起きるのか? その構造を解き明かした、雫井脩介原作の骨太な司法サスペンスを、『クライマーズ・ハイ』などの群像劇で成功を収めた原田眞人監督がスリリングな人間ドラマに仕立てている。
東京地検刑事部のエリート検事・最上(木村拓哉)のもとに、若手検事の沖野(二宮和也)が配属される。正義感の強い沖野は最上を理想の上司として慕い、最上からの指示で老夫婦殺害の被疑者・松倉(酒向芳)を取り調べることに。沖野らの厳しい尋問によって、松倉はすでに時効となっている23年前に起きた女子中学生殺害事件の犯行を認めたものの、老夫婦殺害は否定する。松倉犯行説を最上が頑なに曲げようとしないことから、次第に沖野は最上の捜査方法に疑問を感じるようになっていく──。
原作と同様に、映画でも度々使われるのが「ストーリー」という言葉だ。殺人事件発生後、捜査側は事件現場に残された遺留品や目撃者の証言から、被害者と加害者がどのような関係にあり、なぜ凶行に及んだのかというストーリーを想定し、そのストーリーに従って容疑者を絞っていく。だが、そのストーリーが捜査側の一部の人間の偏った判断によって決められると、罪のない人間に濡れ衣が簡単に着せられてしまう。自分こそが正義であるという思い込みが、権力を凶器に変えてしまう恐ろしさがある。
沖野をサポートする事務官の橘沙穂(吉高由里子)は原作から大きく脚色され、二面性のある目が離せないキャラクターとなっている。また、最上がある行動に出てからの後半の展開は、原作とは異なるオリジナルのものとなっている点にも注目したい。『日本のいちばん長い日』『関ヶ原』で日本の変換期をダイナミックに描いた原田監督は、現代も時代の大きな節目だと感じているようだ。国や社会を守るという大きな正義のために、小さな正義が踏みにじられてしまう理不尽さが映画版には盛り込まれている。
取調室で繰り広げられる緊迫した密室劇の中で、演劇キャリアの長い酒向芳が見せた怪演が印象に残る。初の汚れ役となった木村拓哉も、本作をきっかけに今後どんな役を演じていくのか興味深い。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2018年9月号掲載〉