言語学者の学習歴に驚く『ロシア語だけの青春 ミールに通った日々』
高校生のときからロシア語を学ぶためにカルチャーセンターに通い、高校二年にしてチェーホフの『桜の園』を原書で読めるようになった著者。人気語学教師になるまでの道のりを、軽妙に記した一冊です。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
坪内祐三【評論家】
ロシア語だけの青春 ミールに通った日々
黒田龍之助 著
現代書館
1500円+税
装丁/中濱健治
「最大の魅力」を文字に感じた言語学者の凄い学習歴
大学時代の第二外国語はフランス語だったけれどロシア語の方が好きだった。
大学の語学研究所でロシア語を学び、自宅の近く経堂にあった(今もある)日ソ学院に通った。NHKテレビのロシア語講座も熱心に見た。
そのロシア語熱がさめて三十年以上経つけれど、今でも時々ロシア語講座を見る。
そして黒田龍之助を知った。
なかなか良い授業をする人だなと思ったけれど、上智大学の外国語学部ロシア語学科卒業と知って、なるほどと思ったが、この『ロシア語だけの青春』を読んで、なるほどではすまされない凄い経歴(学習歴)の人であることを知った。
黒田少年は「勉強にも部活動にも興味のない高校生だった」。勉強に興味なかったが外国語は大好きだった。ただし、実利的な英語は除いて。しかも祖父はドイツ語が、叔母はフランス語が、叔父はスペイン語、さらにもう一人の叔父は中国語が得意だった。
外国語を独習するにはNHKのラジオやテレビの講座しかなかった。その中で、独、仏、スペイン、中国を除くと残りはロシア語しかなかった。
そしてテレビ講座を見たらロシア文字に「最大の魅力」を感じた。
その内学校で正式に学びたくなり新宿のカルチャーセンターに通い、一年半で、初級・中級・上級と進み、高校二年にしてチェーホフの『桜の園』を原書で読めるようになった。
ところがロシア語の検定試験で不合格になった(文法や和訳はまずまずだったが、聞き取りと露訳が悪かった)ので、もっと本格的なロシア語学校に通うことにした。
その時、偶然出会った言語学とチェコ語で有名な大学教授(千野栄一だろう)から勧められたのが代々木にあったミール・ロシア語研究所だった。
ここからいよいよこの本の読み所で、その研究所で出会った教師や同級生など次々と怪人物たちが登場するのだが、もはや紙数が尽きてしまった。
(週刊ポスト 2018年5.25号より)
初出:P+D MAGAZINE(2018/08/24)