日向ぼっこのお供に
春と言い切るにはまだ寒さの残る三月。春の気配を感じながら陽の光に温められた窓辺でのんびり読むのにぴったりな三冊をご紹介します。
『マリアさま』いしいしんじ
表紙のレモン色の太陽の絵が素敵な、いしいさんの三年ぶりの小説集は一篇一篇はすっと読めるのに全二十七篇と読み応え充分な一冊です。
特に私のおすすめは、祖父のケンチさんとわたしのある一日を描いた「自然と、きこえてくる音」、俺と中学二年生の反抗期(と思われる)息子のドライブと出会いを描いた「ウミのウマ」、バリ島を訪れたカメラマンの俺と不思議な少女の交流を描いた「ジュブン」の三篇です。どのお話も少し不思議で、でもなんだかあったかい気持ちになるものばかりです。
『わたしの美しい庭』凪良ゆう
縁切りの神様が祀られた神社が屋上にあるマンションの住人と、その周りの人たちの物語。
親子関係、セクシャリティ、どうしても忘れられない過去の事。世間一般的に見て、きっと「普通ではない人」に分類されてしまう人たちのお話です。
彼ら自身、普通じゃないという思いに囚われて自分で自分を傷付けてしまったり、周囲の言葉に傷付いたりする事もあるのですが、読んでいると「世間の常識や他人の目なんてどうでも良い。私は私の思ったままに生きて、それで充分幸せだ」と強く思わせてくれる、優しさに包まれる一冊です。
『詩集 幸福論』若松英輔
はじめの一篇からハッとさせられる事の連続の詩集です。
幸福とは何か。直接的に答えを提示されてはいませんが、自分を慈しむ事、大切な人たちを本当の意味で大切にする事、そしてその思いをちゃんと伝える事。そういった日常で蔑ろにしがち、忘れてしまいがちな事を見つめ直すきっかけを与えてくれる一冊で、静かでゆったりとした時間をもたらしてくれます。
今の時代、気になる事をすぐに調べられる便利さの反面、アレも知りたいコレも気になると気忙しくなりがちですが、外の世界から離れてゆっくりと別の世界に浸れる読書ってなんて手軽で贅沢な行為なのだろうとこのコラムを書いていて改めて思いました。読書最高!