◎編集者コラム◎ 『囁き男』著/アレックス・ノース 訳/菅原美保

◎編集者コラム◎

『囁き男』著/アレックス・ノース 訳/菅原美保


《背筋の凍るような恐ろしい犯罪が題材であっても、読み手の心の奥底まで入りこんで感情を揺さぶり続け、読み終わった後もなかなかその状態から放してくれず、いつまでも心に居続けるミステリーに出くわすことがある。本書『囁き男』はまさしくそんな一冊だ》

 翻訳ミステリー・映画ライターの♪akiraさんによる、解説の中の言葉です。

『囁き男(原題:The Whisper Man)』は昨年のCWA(英国推理作家協会)イアン・フレミング・スチール・ダガー賞最終候補作。NYタイムズやサンデータイムズのベストセラーリスト入りもし、さらに『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の監督・ルッソ兄弟による映画化企画も進んでいるという、イギリス発、超話題のミステリーです。

 主人公は10か月前に妻を亡くしたばかりのトム。彼にはジェイクという7歳の息子がいます。ジェイクは、母親が自宅の階段の下で倒れている姿を見てしまって以来、一人でその階段を昇ることが出来ず、学校でも周囲と馴染めず一人で絵を描いて過ごし、話をするのは空想の友だちの女の子だけ。そんな息子と上手く向き合えないことを悩むトムは、新天地で新たな生活を始めることを決意。ところが引っ越し先の村では、20年前に村人たちを震撼させた連続児童誘拐殺人事件を彷彿させる事件が起きたばかり。そしてこの村では、20年前の事件の犯人で今は服役中の男――通称〈囁き男〉が子どもたちの間で都市伝説化され、その陰が未だに色濃く残っていたのです……。

 過去と現在が交錯するおぞましい事件。かつて〈囁き男〉を逮捕した警部補ピートと捜査の指揮を執るアマンダの二人が、謎を追う姿を描く警察小説としての面白さも大きな魅力ですが、それ以上に惹き込まれるのはトムとジェイクを中心に、世代を超えた「父と息子」たちの関係で、それぞれが互いに葛藤やトラウマを抱えています。例えばトムとジェイクは、互いが「いい父親」「いい息子」になれないと思っていて、深く愛し合っているにもかかわらず、その不器用さや自己評価の低さゆえにすれ違ってしまう。そんな二人にヒリヒリさせられ、なんとか幸せになってほしい……!と、事件の謎もあいまってページをめくる手が止まらなくなります。

 他にもさまざまな「父と息子」が登場しますが、その誰もが父親に対するトラウマを抱えて苦しんでいます。改めて、親子って何だろうと考えさせられ、自分と親、自分と子どもの関係をふと見つめ直してしまいました。まさに♪akiraさんの冒頭の言葉の通り、読了後もしばらく心を捉えられて離れられない、そんな小説です。

 もうすぐ父の日。本作を読みながら、たまには「父と息子」(もちろん、母や娘も!)というものに思いを馳せてみませんか。

──『囁き男』担当者より

囁き男

『囁き男』
著/アレックス・ノース
訳/菅原美保

今月のイチオシ本【ノンフィクション】
◇長編小説◇白石一文「道」連載第2回