◎編集者コラム◎ 『ふたつの星とタイムマシン』畑野智美

◎編集者コラム◎

ふたつの星とタイムマシン』畑野智美


 この作品を初めて読んだとき──。一つ一つの短編がバラエティーに富んでいて、次にどんな物語がくるのかと、わくわくしながらページをめくったことを思い出します。彼氏の過去へと遡り、前の女とつきあわせないように画策したいって気持ち、よくわかる!! と共感したかと思えば、小学生男子のシビアな人間関係に胸が締め付けられたり。全く私とは立場の異なる登場人物なのに、それぞれの物語の主人公が抱えるコンプレックスだったり願望だったりに共感させられ、どんな主人公にも気持ちがフィットしてしまうという不思議なショートーストーリーたち。

 この作品の見所は少し不思議(SF)なところ。ともすれば不思議なお話って、都合のいいところで不思議アイテムが出てきて解決、というご都合主義的な展開にもなりがちなところ、この不思議エッセンスが、ちょっとブラックな方向にも導いてくれて、さながら小学館で言うところの「ドラえもん」的なダークなユーモアも織り込まれているのです。便利だからって、全面的に頼っちゃダメだよ、というあの感じ。ドキッとしたりクスッとしたり寂しかったり、一篇一篇を五感を使って丁寧に楽しん欲しい短編集。SFが苦手という人も、敬遠しないで、まずは是非読んでみてください。「不思議」の先にある人間模様がとってもリアルで自分にもふとした拍子に身近に不思議なことが起きるんじゃないかとゾクッとします。

 短編集としての完成度の高さはもちろんですが、この一冊だけで読了させてしまうのはもったいない。二月に刊行する文庫『タイムマシンでは、行けない明日』、こちらの長編ストーリーと一緒に読むことで、一つ一つの短編がパズルのピースのように、長編のエピソードの中にピタッとはまってくるという面白い構造になっています。長編の主人公から見た視点と短編の主人公から見た視点、同じ事象でも見る立場によって全く違って見えてくる。こんな短編と長編の組み合わせって、かつてありましたっけ? 緻密に計算された二つの作品を行ったり来たりする本の旅。こんな技を駆使できる作家さんって畑野智美さんをおいていらっしゃらないのでは? と私は思っています。初めて読んだのがもう五年前。二冊読み終わった時のあの衝撃と感動を、二月刊の『タイムマシンでは、行けない明日』と併せてご購読いただいて、是非みなさんに体験して欲しいです。

 本書のカバーを飾ってくださるのは、著名なアニメーター吉田健一さん。物語の世界観を一枚の絵で見事に表現してくださっています! 装幀の細部を見ると、短編の主人公たちらしき描写が。装幀を見ているだけでも、どんな物語が始まるのか、わくわくしませんか?

『ふたつの星とタイムマシン』イラスト
『ふたつの星とタイムマシン』イラスト
『ふたつの星とタイムマシン』イラスト

*本文庫は、集英社文庫より2016年に刊行した文庫を再文庫化したものになります。

──『ふたつの星とタイムマシン』担当者より

ふたつの星とタイムマシン

ふたつの星とタイムマシン
畑野智美

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