◎編集者コラム◎ 『アルテミスの涙』下村敦史
◎編集者コラム◎
『アルテミスの涙』下村敦史
下村敦史さんが『闇に香る嘘』で第60回江戸川乱歩賞を受賞し、センセーショナルなデビューを遂げたのは2014年。その後、リーガルもの、医療もの、山岳もの……と多彩な作品を次々に発表し続け、話題となっています。
小学館から一冊目のミステリー『悲願花』を刊行させていただいた後、上京された下村さんと神楽坂で新作の打合せをしました。
下村さんは小説を書かれるにあたって、必ず、編集者がどんな作品を書いてほしいのか、リクエストをしっかり聞いてくださいます。
私は「次の作品は、コミュニケーションが制限された状況でのミステリーはどうでしょうか」という提案をさせていただきました。
その頃、A・J・フィンの『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』というミステリーを読んだばかりだったのですが、〝広場恐怖症〟で家の外に出られないヒロインが事件の目撃者となる……という設定が非常に面白く、なんらかの閉塞状態に置かれた人物をめぐるミステリーを下村さんに書いていただきたいと考えていました。
また、何を隠そう、私は下村さんのデビュー作『闇に香る嘘』がとにかく大好きなので、全盲の主人公目線で描かれたあの傑作ミステリーに、著者みずから再び挑んでほしいなという思いもありました。
そうしてご執筆いただいた本作『アルテミスの涙』は、閉じ込め症候群(ロックドインシンドローム)で長期入院中の女性患者が妊娠する……という事件から始まるミステリーです。
真相を探るため、産婦人科医のヒロインが話すことのできない女性患者と〝まばたき〟を通して会話を繰り広げるのですが、緊張感あふれるこのやりとりこそが、この小説の読みどころ。
全てのまばたきが、伏線です。どうか真実を、お見逃しなく。
──『アルテミスの涙』担当者より