安倍雄太郎『いのち短し、踊れよ男子』

彼女にフラれて気づいた友情の素晴らしさ!


 はじめまして。安倍雄太郎と申します。名前だけでも憶えて頂ければ幸いです。

 本作「いのち短し、踊れよ男子」は、若者男子の友情をテーマに、日本舞踊の世界を描いた青春小説です。

 三作目ということで、今までとは少し異なるジャンルの小説を書いてみました。一作目、二作目ともに恋愛小説を書いてきたので、過去の作品を読んで頂いた方は、少し予想外と思われたかもしれません。実は二作目を出版した直後に作者が彼女に振られ、「恋なんてウンザリだ」「ボーイミーツガールの話なんか考えたくもない」とひねくれてしまったことが原因の全てというわけではないのですが、振られてから男友達とばかり遊ぶうち友情の素晴らしさに気付き、「そうだ、これを小説にしよう!」と、前向きかつ爽やかな気持ちで挑戦した作品です。

 舞台は東京都台東区。大学生になったばかりの非モテ男子──駿介くんが、可愛い女の子に釣られ、日本舞踊の教室に入門するところから物語が始まります。そこで出会ったのは一つ年上のイケメンな兄弟子──吉樹くん。周りの弟子とは比べ物にならないほどハイレベルな芸を身に付けている彼は、新人の駿介くんに対し嫌がらせのような指導をしてきます。駿介くんは吉樹くんに負けまいと一生懸命稽古を重ねていくのですが……。

 一見すると真逆の二人が日本舞踊を通して出会い、いがみ合いつつも成長していく姿が、今作の見どころとなっております。大人にも子供にもなりきれない、微妙なお年頃の男子。過去の自分を振り返るどころか、今の自分と変わらないようで、とても楽しく書かせて頂きました。

 一方で、「日本舞踊」という世界を描くことは非常に苦労しました。一般の方にはあまり馴染みが無く、しかも本来はナマの舞台でしか楽しめない芸術を、文章でどう表現したらいいのか。日舞を知らない方が読んでも楽しめるように、けれどその魅力をなるべく奥深くまで描けるように、何度も書き直しました。普通はなかなか味わえない、舞台上の空気や緊張感が少しでも伝われば幸いです。

 ちなみに、作者自身が日本舞踊の名取で、登場する演目は実際に踊ったことのあるものを中心に選んでおります。作者もたまに舞台に立ったりしています。ご興味を持った方は、是非本物の舞台も観て頂ければと思います。

安倍雄太郎(あべ・ゆうたろう)

1991年生まれ。東京都出身。第18回小学館文庫小説賞を受賞した「君のいない町が白く染まる」でデビュー。著書は他に「僕の耳に響く君の小説(うた)」がある。

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