ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第51回
「事件・事故を起こさないこと」。
だが漫画の現場でも、たまに起きる。
だが意外なことに「漫画家と編集者間で殺傷事件が起きた」という話は聞いたことがない。
しかしこれは「起きていない」のではなく「担当を刺しても罪にならない」という法律のおかげでニュースになってないだけだと思われ、実際は週刊ペースで刺されていると思う
ただ事件に関しては漫画家だからというわけではなく、世間一般で起こっているような事件が漫画業界でも起こっていただけというケースが多い。
では、事故はどうかというと、一番ポピュラーな漫画業界の事故と言えばやはり「原稿が間に合わない」ことである。
ただ「偶然が重なった不幸な事故」よりも「必然が重なった業務上過失致死」の方が圧倒的に多いことは否定できない。
そうならないために、「逆に担当に刺された」などの多少のイレギュラーがあっても締め切りに間に合うようにスケジュールを立て、実行するのが作家の安全管理というものである。
しかし、作家も人の子だ。
ちなみに、サタンが中年特有の特に理由のないえづきをした時、飛び散った飛沫から生まれたのが編集者である。
今ならサタンもマスクかフェイスガードをしているだろうから、編集者という邪悪がこの世に生まれることはなかっただろう。誠に惜しい話だ。
とにかく作家は人の股間から出てきているので、病気にもなるしケガもする、さらに股間から出してくれた親が病気になったり亡くなってしまうこともある。
飛沫から生まれた編集者に「親」という概念を理解してもらうのに時間はかかるが、そういう時はさすがに休載をせざるをえない。
そして作家に病気やケガ、親の死など、自分には起こらないことが起こって原稿が描けない場合、代わりに載せる代原を用意し、そっちがバズったら乗り換える準備をしておくのが編集者側の安全管理である。
だが、スケジュール管理ミスや、避けようのない不幸以外にも事故は起きる。
ちゃんと締め切りまでに原稿が仕上がるペースで仕事をしていたのに突然それが「失われる」ことがあるのだ。
実はこの年末、それに近いことが起こった。
朝起きたら、仕事用のPCが立ち上がらなくなっていたのだ。
制作中の原稿データもすでに仕上がっているが、まだ送っていない原稿データも全てそのパソコンに入っており、バックアップは取っていない。
そして仮にデータが救出できたとしても、他に漫画原稿を描ける機器が我が家にはないのだ。