ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第51回
「事件・事故を起こさないこと」。
だが漫画の現場でも、たまに起きる。
あまりのことに、途中あえて寝てしまったが、結果から言うと修理に来てもらい、復活させることができた。
しかし、もしそのデータが復活できなかったら1カ月分の仕事が全て吹っ飛んで餓死するところだった。
そういう事故を防ぐため、作家はバックアップを取ったり、クラウドに保存しておくなどの安全管理もしなければいけないのである。
つまり、漫画家は漫画を描くだけではなく、データを管理し、予備機を用意し、病気にならず、ダンプと相撲を取ってもケガをしないようにし、親が突然死なないようにサイボーグ化するなどの「安全管理」を基本一人でやらなければいけないということである。
漫画家のみならず、フリーランスというのは、会社であれば手分けしてやることを1人でやるという「作詞:俺 作曲:俺 歌い手:俺」というシンガーソングライター状態であるということは覚えておいてほしい。
もちろん自分が倒れると、代わりにやってくれる人はおらず、休むしかなくなるし、もちろんその間、特に補償はない、何だったら補償も自分でつけておかなければいけないのだ。
原稿がデジタル化し「完成原稿にスミをぶちまける」というような昭和的事故は起こらなくなったが「一瞬で跡形もなく消える」という可能性がある分デジタルの方がリスキーとも言える。
しかしアナログ時代でも、原稿が消滅する事故というのはあった。
それは「原稿の紛失」である。
ヤギでも飼っていない限り、家から紙の原稿が消えるなどということはないだろう、と思うかもしれないが、なくしているのは作家ではない。
その昔「編集が作家から預かった原稿を電車に置き忘れるなどしてなくす」ということが結構あったそうだ。
結局見つからず、コピーもとっておらず「全部描き直す」という例もあったらしい。
その編集者は一体どうなったのか。
ただ、どんな目にあっていても「原稿をなくした編集者はどう処遇してもよい」という法律があるため、ニュースにはならず、我々が知るよしはない。
(つづく)