ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第56回

ハクマン56回賞を受賞して得た知見。
今、漫画を売るには
「きっかけ」が必要である。

つまり決して駄作ではないのに知られる「きっかけ」を掴めずに終わった作品もこの世には多いということだ。
しかしこの「きっかけ」を掴むのが現代では容易ではない。
漫画雑誌を購読している人は減っている一方でWEB漫画は増えすぎており、全ての作品を宣伝する宣伝費は出ない。
ツイッターバズ漫画も数が増える一方なので、一発バズったらすぐその続編を描くなど、屁をした3秒後に実弾を発射するぐらいの瞬発力がなければ2日ぐらいで忘れられてしまう。

そんなきっかけ作りが難しい中で「受賞」という良いきっかけ、またはきっかけを作るきっかけなので、どんな賞でもいただければ嬉しい、というのが本音である。

ちなみに「読まれるきっかけ」というのは宣伝だけではなく、作品の表紙、なんだったらタイトルの時点ではじまっている。
ラノベなどのタイトルがタイトルだけであらすじを全部説明してしまっているのもタイトルで「これが、信じて送り出した妻がチャラ男にNTRされてビデオレターが送られてくる作品ですよ」とわかるようにすれば、NTR好きの人が手に取るきっかけになるからだ。「読んでもらえればわかる」というのはもはや甘えになりつつある。

読まれるきっかけといえば「漫画の広告バナー」もその一つだ。よく「漫画の広告バナーが不快」という声を聞くが、あれはその作品で一番目を引くコマを使っているため、エロが売りなら一番エロいコマ、会社に不愉快な女がいる話なら最も不愉快なコマを切り取って載せるため、どうしてもそうなってしまう。ただ目につくということは「目を引いている」ということであり、逆に刺激的でないコマを載せると目に留まらず、広告の意味がないので、描いている側としてはあまり批判ができない。
ただ、エロが主題ではないのに目を引くためにエロいコマを広告に使い「あのエロ漫画ね」と作品自体に間違ったイメージがつく恐れもある。

 

この「刺激的な一部分だけ切り抜いて流布される」というのはネットやSNSの悪い部分であるが、AVのパケに一番イケてる写真を使うのと同じであり、その「奇跡の一コマ」が広まったおかげで売れるということもあるので、別の漫画のコマを使わない限りは悪い宣伝方法とは言えなかったりする。

ともかく読まれなければ話にならないのでこの「読まれるきっかけ作り」も漫画家の重要な仕事になりつつある。

しかしそのせいで「ツイッターやりすぎ」など、一番大事な「漫画を描く」という仕事がおろそかになる場合もあるので、やはり「きっかけ」ぐらいは担当や出版社がもう少し頑張って作ってほしい。

ハクマン

(つづく)

 
次回更新予定日
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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