ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第63回

ハクマン第63回やはり担当は
殺すと思った瞬間
殺し終わっていないとダメなのだ

私も支払われていないことに気づいてないわけではなかったし、当然大丈夫でもなかった。
しかし「もうちょっとシャレにならなくなってから死ぬほど怒ろう」とスケベ心を出してしまったせいで、相手の方が先にうっすら勘付いてしまい「何か、本当にすみませんね」みたいなことを言い出してしまったため、こちらも「おうよ」と妙にキンタマがでかい態度を取ってしまった。

やはり担当は殺すと思った瞬間殺し終わっていないとダメなのだ。プロシュート兄貴の覚悟が今、言葉ではなく心で理解できた。

その後、無事原稿料は支払われ、振り上げられた両こぶしは行き場をなくし、両胸を激しく殴打しながらゴリラの真似をするしかなくなってしまった。

だがその後、幸いにも単行本の印税も3か月ぐらい支払われていないことが判明した。

「もう1回殴れるドン!?」と、元は木の色をしていた赤黒いバチを握る手に力が入ったが、間の悪いことに、ちょうどその時期担当が交代になってしまったのだ。
当然この件に関し、新しい担当は無関係である、もちろん担当というだけで殴れることは殴れるのだが、こちらの手首がイカれるレベルでは殴れないのだ。

先方は謝っているし、今月末には支払うと言っているのだから、これ以上追及はできない。

そして、未入金のまま約束の日を5日ほど経過したのがこれを書いている本日である。

さすがに「本当にもう1回殴っていいドンですか?」と、罠を疑うレベルだ。
ちなみに、社長と専務(社長の嫁)が2人でやっている出版社というわけではない。

一瞬これも、取り返しがつかなくなる(私の人生が)まで黙っておこうかと思ったが、それではプロシュート兄貴が浮かばれない。

今回は5日という異例の速さで「入金されてないぞ」と問い合わせたところ「原因不明だが、振り込まれていないのだけは確か」という返答をいただいた。
振り込まれていないのは俺が一番知っているのだが、確実に振り込まれていないようなので安心した。
だが「手続き上、支払いは行っているが、最後のところで上手くいかなかった」とのことで、どうやら惜しいところまではいったらしい。
だったらもう少し頑張ってもらうしかない。私も応援する。

本来なら、どうしてこうなったのか、理解はできないとは思うが最初から説明しろ、と相手に時間の無駄を要求するところなのかもしれないが、やはり新担当は一連のことには直接無関係だろうし、上記のことも経理に言われたことをそのまま伝えているだけだろう。

つまり新担当をいくら怒っても、本当に燃やしたい家が更地になっていたから、代わりに隣の家に火を点けているようなものなのだ

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『警視庁殺人犯捜査第五係 少女たちの戒律』穂高和季
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