ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第63回

ハクマン第63回やはり担当は
殺すと思った瞬間
殺し終わっていないとダメなのだ

しかし、異動により全く無関係の不発弾を引き継ぐことになったり、ヤバいことをした本人より「ヤバいことになったと相手に伝える役」に抜擢された方が心痛する、というのは企業あるあるだ。

そういった意味で言うと、漫画家は「完全にコケている連載を途中から引き継ぐ」ということはない。
その代わり自分がコケさせた作品は自分で最後まで始末をつけないといけないのだが、原稿料が入らないという理不尽はあっても、作品の出来不出来に関しては良くも悪くも自己責任である。

しかし、漫画の面白さとは別の理由で連載が終わってしまうこともある。
先日、他作品のキャラを複数悪質にパロディしたとして、某漫画が連載1回目で打ち切りになるという事件があった。

詳しい話はまた別の機会に書きたいが、私もこの漫画を掲載した出版社で仕事をしているのだが、コンプラには非常に厳しく、他作品の固有名詞は一切出せないし、他にも不適切な表現があるとすぐ削除になってしまうのだ。

部署は違うだろうが、同じ会社でそんなパロディ漫画にOKが出たということに驚愕した。
しかし思い返してみると「プロシュート兄貴」のような固有名詞を出すのはNGだが「担当は殺すと思った瞬間殺し終わってないといけない」というような、セリフなどに触れるのはOKと言われていた。
件の漫画でもおそらくパロディ先の名前は出していなかったのだろう。
つまり「コンプラに厳しい」ではなく「うちは名前さえ出さなければ何しても良い」というのが正しい理解だったのかもしれない。

それを踏まえて、私も今度同社で仕事をするときは、名前を出さずにどこまでハチャメチャ描けるかトライしてみようかと思うが、おそらく普通に載らないと思う。

このように有名出版社というとしっかりしている、というイメージがあるかもしれないが、逆に規模と人数が多すぎて足並みがそろっておらず、その脱線事故で作家が命を落とす、ということもままあるのだ。

(つづく)

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『警視庁殺人犯捜査第五係 少女たちの戒律』穂高和季
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