★編集Mの文庫スペシャリテ★『夢探偵フロイト -てるてる坊主殺人事件-』内藤 了さん

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★編集Mの文庫スペシャリテ★『夢探偵フロイト -てるてる坊主殺人事件-』内藤 了

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イラスト/syo5

『猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』『よろず建物因縁帳』など、質の高いシリーズ作品を手がける内藤了さん。ホラーとミステリを融合させた作風で、幅広い読者の人気を集めています。最新シリーズ『夢探偵フロイト』は、悪夢を研究している大学教授のチームが奇怪な事件を解いていくという、新機軸の探偵小説として注目されています。『夢探偵フロイト -てるてる坊主殺人事件-』は、シリーズの第2作。前作よりもさらにエンターテイメント性が高まった、今作へこめた思いを、内藤さんに詳しくお聞きしました。

視界良好のシリーズ第2作

きらら……『夢探偵フロイト』シリーズの第1作『-マッド・モラン連続死事件-』刊行から、8ヶ月ほどでの続編となります。この早さでの刊行は想定されていたのですか?

内藤……意図していたわけではありません。私の他のシリーズ『猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』も『よろず建物因縁帳』も、だいたい数ヶ月ごとのペースで新作を出しています。角川書店のデビュー当初から、シリーズ作品はそういうものだと刷り込みされているのでしょう。作品にとって一番の宣伝は、新作を期間を空けずに出し続けること。意識的に早くしているというより、作品のプロモーションとして間を置かず、半年ちょっとぐらいのペースで刊行するのが、私には当たり前の認識なのです。

きらら……読者としては、ペースよく内藤さんの新作が読めて嬉しいです。前作のインタビューのとき、「先の展開はあらかじめ考えてはいない」「キャラクターたちの目を通して書き取っている感覚」と言われていました。今作は、その見通しはクリアだったのでしょうか?

内藤……私がいままで書いたシリーズのなかで『夢探偵フロイト』は、視界が最も良好です。過去に比べて、作家の技術が最も高まった作品になるので、「こうしたい」と思うところに、寄せられている手ごたえはあります。私のライバルは、昨日の自分です。1作目より2作目が面白くないと、自分では納得できません。シリーズの視界は良好ですが、甘んじることなく、3作目以降につながるよう、『-てるてる坊主殺人事件-』はいいものにできたと思います。

きらら……人形が一連の事件の鍵となっています。このアイディアは、第1作のときからお持ちだったのですか?

内藤……いえ、全然。まず、人に感染する夢というのが今作のアイディアでした。その要素は生かしましたが、担当編集者さんから「さらに怖くできませんか?」と言われて、考えました。夢のなかだけでなく、現実世界にも影響していく、忌まわしい話にしていこうと。そこでふっと、人形のモチーフが降りてきたのです。

夢探偵フロイト

病気と闘っている人に向けている

内藤……人形って、気味悪いですよね。"ひとがた"と文字にあるように、もとは呪術が発祥でしょう。人の代わりに魂を宿らせ、念が生きながらえる……昔の死者の副葬品を見てもわかりますね。呪術的な力を発揮する宿命の存在だと思います。中国の兵馬俑などもそうですが、それ以前には生きている人間を埋めていた時代もあったわけで。そういった歴史から、可愛い姿の人形も何だか少し怖い、という認識があります。『藤堂比奈子』シリーズを書くときに勉強しましたが、猟奇殺人犯の心理を追っていくと、人形にこだわるパターンが多いらしいです。人形の持つ呪術的な何かに、犯罪者は無意識に惹かれるのかもしれませんね。
 犯罪者を許したりはしませんが、感情的に切り捨てるだけでは真実に迫れないと思います。倫理的なバランスを取りつつ、人間のリアルで忌まわしい話を組み立てていこうと考えたとき、人形のモチーフが、私のなかでは自然に結びつきました。

きらら……髪をそり上げられた若い女性の殺人事件と、人を死に至らせる夢の研究が絡んでいく、緻密な構成に引きこまれました。また、あかねをはじめ登場人物たちの軽快でポップなやりとりが、前作にも増して楽しかったです。

内藤……ありがとうございます。楽しく読めて、気持ちの上がる物語を書くことを心がけています。私は病気と闘っている人を読者のターゲットに置いているのです。
 昔、大病で入院していたとき、辛い検査や痛みなどで、精神的にだいぶ参っていました。心の逃げ場が、私の場合は本だったのです。もし病気が治って、命が助かったとしたら、それは何かをやるためだろうと。自分みたいに病気で苦しんでいる人たちに、ストレスを与えることなく、心に寄り添える楽しい物語を書ける作家になろうと決めたのです。その信念みたいなものが、今作ではより前面に出たのかもしれません。

きらら……おっしゃるように内藤さんの小説は、いい意味で、心身ともにいたって健康な人向けには書かれている感じがしませんね。

内藤……そうかもしれません。楽しい物語を書こうとしているけれど、明るくてハッピーエンドすぎる物語でも、いけないんです。例えば不治の病が奇跡で治るなど、ポジティブすぎる話は避けています。病気の人には、逆にストレスがかかります。自分は治らないかもしれないと、ずっと不安で、落ちこんでいるわけですからね。
 読んでいる間はぞくぞくしたスリルを感じてもらいながらも、結局は明るい読後感を残して、「面白かった!」とシンプルに思ってもらえる小説を目指しています。バランスがとても難しいけれど、『夢探偵フロイト』は、『藤堂比奈子』とは別の形で、その難しいバランスを活かせるシリーズになりそうです。

芸人の家の遺伝子が書かせている

きらら……フロイトの夢研究の被験者に、実業家の娘・塚田翠が登場します。彼女が繰り返し見ている悪夢が、一連の殺人事件の真相に、深く関わっていきます。

内藤……翠の見る悪夢は、私の祖母が実際に見ていた夢がもとになっています。
 祖母は小さい頃から、寝ているとき、たびたび同じ悪夢を見ていました。うなされている声がすごくて、家族みんな「またあの夢を見てる」と、わかるほどでした。何度も見ている夢の景色を、祖母が亡くなる少し前に、詳しく聞かせてもらいました。それをほぼ再現したのが、翠の夢です。彼女はいわば、若い頃の祖母自身だといえます。
 余談ですが、親戚がモデルの人物を、小説にたびたび登場させています。例えば『よろず建物因縁帳』の雷助和尚は、寺の放蕩息子だった曾祖父を重ねています。うちは面白い一族で、祖父はお寺の養子だったけれど、祖母と駆け落ちして芸人になりました。父は芸能関係のプロモーター。私は芸人の家の子どもなのです。人を楽しませるDNAが、作家の道に繋がった理由のひとつなのでしょう。

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きらら……フロイトたちの解析で、翠の悪夢の理由が明かされるくだりは胸が詰まりました。彼女は『-てるてる坊主殺人事件-』のもうひとりの主人公のようです。

内藤……少しわがままなふるまいの女の子ですが、それには理由がありました。彼女自身、悪夢に責められ続け、辛かったのでしょう。私としては気に入ったキャラクターで、レギュラーとして今後もシリーズに登場すると思います。
 翠の見ていた悪夢の景色にも、伏線を張っています。他にも伏線を効果的にちりばめています。それは私からの読者の方へのお土産です。一度読んで驚いてもらって、二度目では別の発見があるように工夫しています。読者同士で「○○に気づいた!?」と盛り上がってくれたら、嬉しいです。

自分のための小説は書けない

きらら……惨い殺人事件を描かれるにしても、家族や周辺の人たちへの配慮がなされています。内藤さんは命に敬意があり、命というものを、大事にとらえていらっしゃる印象があります。

内藤……先ほど言ったように、小説を書こうという動機が、私自身の闘病体験です。いろんな病気の入院患者さんを見たり、わが身の病状と向き合いながら、命について深く考えました。結局、人間は死んじゃうんです。それは揺るがない真実。自分だけじゃなく、大事な人も、必ず死にます。やがて死んじゃうのに、頑張って生きるのって無駄じゃん、という考え方もあるでしょう。でも、必ず死ぬのに、どうして生まれてきたの? と、私は問いたいんです。
 死んじゃうのは、避けられない。死が訪れる瞬間まで、生きていることにどんな意味があるのか、探していくのが人生の本質です。無駄なんかじゃありません。そういうことを伝えていきたい気持ちが、自分の根底にあります。読者の方も、無駄じゃない人生を生きている人の物語を読みたいから、本を手に取ってくれているんだと思います。
 私が書き下ろし作品を中心にしているのは、執筆リズムが自分に合っているのと、もうひとつ、連載小説は「読んでいる人が不慮の出来事などで亡くなってしまったら、最後まで読めない」と考えているからです。最後まできちんと、読者みんなに、いい小説を届けたい。とにかく私は読者が第一です。共感してもらえて、面白く読まれる小説を、最優先にしています。

きらら……『-てるてる坊主殺人事件-』はフロイトと祖父との関係など、今後の謎解きに期待できるエピソードが増えてきました。読者の楽しみも膨らみます。

内藤……あるときにポンと、登場人物が自分から語り出します。そこに来るまで、作者の私も知りません。今回は意図的に登場させたのは翠だけで、その他の人物や出来事は、彼らが自発的に起こしてくれています。『夢探偵フロイト』は、登場人物と物語の両方、いい感じに育っている自信があります。
 シリーズがどこまで続くか、わかりません。3作目までの構想はありますが、その先は未定です。未定ですが、水で薄めたような長い話にはしたくない。読者の気持ちが一番盛り上がる、最高潮のときに終わらせたいです。前にも言いましたが、私は「読者賞」でデビューしました。読者さんのために小説を書きたい。自分のためには書けないのです。苦労が多すぎますからね。
『夢探偵フロイト』は、始まったばかりです。今作だけを読んでいただいても充分に面白くなりましたが、まだまだここからだ、見てろ! という気持ちです。 

 

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▼シリーズ前作も!

夢探偵フロイト

内藤 了(ないとう・りょう)

長野市出身。長野県長野西高等学校卒。『奇譚百話綴り』が第6回『幽』怪談文学賞長編部門佳作入選。『霜月の花』で第7回、『顔剥ぎ観音』で第8回『幽』怪談文学賞長編部門奨励賞を受賞。2014年『ON』が日本ホラー小説大賞読者賞受賞となり本格デビュー。同作は『猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』シリーズとして、現在も継続中。猟奇的な殺人事件に挑む女刑事のキャラクターが広く支持を集め、16年にはテレビドラマ化された。他の著作に『よろず建物因縁帳』シリーズ、『ゴールデン・ブラッド』など。

〈「きらら」2018年12月号掲載〉
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第21回
◎編集者コラム◎『BANANA FISH #1』小笠原みく 原作/吉田秋生 脚本/瀬古浩司 監修/Project BANANA FISH