週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.22 うなぎBOOKS 本間 悠さん
『虚魚(そらざかな)』
新名 智
KADOKAWA
小さい時から怖いものが好きだ。
たぶん、原体験は夏休みに放送されていた『あなたの知らない世界』。そして、藤子不二雄(A)先生の『魔太郎が来る!』や、楳図かずお先生の漫画たち。あの頃は、『世にも奇妙な物語』のホラー回も手加減なしで怖かった。『ベビーシッター』というエピソードなんか、横で見ていた弟がパニックを起こし、いよいよという山場でテレビを消して逃走したのを今でもよく覚えている。
実際に怖い目にあったことはないが、きっといるかも、もしかしたら出るかもという〝期待〟に胸を膨らませて、こっくりさんに明け暮れ、心霊スポットにも足を運んだ。
映像技術の進化とともに、それらのオカルトはすっかり鳴りを潜めてしまった。心霊写真は、スマホのアプリで簡単にそれらしいものがいくらでも作れるし、動画もまた然り。タクシーに乗ってくる髪の長い女(目的地に着くといつの間にかいなくなっている……ぐっしょり濡れたシートを残して)は、ドラレコには決して映らない。
そんな〝怪談封じ〟の21世紀を以てしても、人々の怪異を求める好奇心は収まらない。怪談を特集するテレビ番組は減ったし、もう13日の金曜日に『13日の金曜日』は放送されないけれど、YouTube で「怪談」と検索すれば、そこには怪異があふれ、怪談師と呼ばれる人たちが怖い話を披露している。
『虚魚』は、そんな怪談師・三咲と、動画配信者・カナちゃんによる、怪談の源流を辿る物語である。
「釣りあげると死ぬ魚」がいるという。「人を殺せる怪談」を探している三咲と、「怪異によって死にたい」カナちゃんは、その魚に出会うべく取材を開始し、海を、川をさかのぼってゆく。懐かしくは『残穢』、新しくは『ほねがらみ』(芦花公園著)でも描かれた、無関係に思われた怪談たちが奇妙に符合してゆく現象は何度読んでもゾクゾクする。まさかアレすら繋げてくるとは! 新名さんはもともとミステリサークルの出身だというし、その構成は読めば読むほど「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」の名にふさわしい。謎を解くと怖いものが待っているし、その怪異が、新たな謎を連れてくる。物語が終盤に近付いても、まったく着地点が見えず、あぁこのお話どうなっちゃうの!? が、最後まで続く。
この物語は優れたホラーでありミステリであると同時に、傷を負った二人の女性の再生を描くストーリーだ。そもそもなぜ、二人は怪異を求めるのか。明かされる二人の動機には、長年の怪談ファンとして思わず我が身を省みてしまう。怪異をエンタメとして消費し、ガムを噛み散らかすように味わっては捨て、味わっては捨てを繰り返す、すべての怪談ファンへ捧ぐ。
このお話は、あなたの怪異との付き合い方に、一石を投じるに違いない。
あわせて読みたい本
『リング』
鈴木光司
角川ホラー文庫
「●●したら死ぬ」ムーブの元祖、「見たら死ぬビデオ」(ビデオってところがまた…!)の謎に迫る物語。もはや説明不要かと思われますが、原作は怪異のルーツを探る過程がより詳細で今読んでも絶対怖いです。
おすすめの小学館文庫
『夢探偵フロイト』
内藤 了
小学館文庫
こちらは「見たら死ぬ夢」の謎に迫る物語。夢の研究をするフロイト教授はじめ、ワトソン役を務めるヲタ森、城崎あかねのキャラクターの掛け合いはコミカルだけど、悪夢の真相はしっかり悲しい。このシリーズ好きです!
(2021年12月17日)