◎編集者コラム◎『提灯奉行 一寸法師の怪』和久田正明

 ◎編集者コラム◎

『提灯奉行 一寸法師の怪』和久田正明


和久田正明さん

 そもそも、提灯奉行なんて役職があったのか。執筆依頼を快く引き受けてくれた作者から、こんな企画はどうか、といわれたときは正直なところ少々面食らってしまいました。読者諸兄姉、提灯奉行ですよ、提灯奉行。脱力しませんか。奉行といえば、なんといっても江戸町奉行でしょ。江戸の治安と財政政策を一手に引き受ける要職で、現代の日本に当てはめれば警視総監と東京都知事を合わせたようなお役目です。遠山金四郎、大岡越前と時代小説の花形が勢ぞろいしている。それなのに選りにもよって提灯奉行とは、主人公としては、いかにも軽い、情けない。ところが、作者の話を聞くうちに、なんだかなあという気持ちが、これはいけるかもしれない、に変わり始めた。

 シリーズ第1作で著者はこう説明する。提灯奉行白野弁蔵のお役高は八十俵、ご譜代席のご家人で、お目見得以下。つまり、将軍に御目通りできない軽輩者。城内で使う提灯類の修繕、保管をなし、日が暮れれば殿中を隈なく歩き回って火を灯して歩く。誰も歯牙にもかけない役目だと。しかも、主人公の弁蔵は、三人いる提灯奉行のうち最年長で独身。その初老の侍が、時の将軍家斉の正室寔子の命をつけねらう織田信長の残党・影母衣衆を、それは鮮やかな手並みで撃退する。さらに、あろうことか、五十路の純情侍と四十路の御台様に恋が芽生える。外野から、そんなことはあり得ない、という声が聞こえてきそうですが、耳を貸すことはありません。なんせ、時代小説とは、つまるところ、ファンタジー、つまり、現実にはないお話なんですから。そもそも、現代人の誰も江戸時代に暮らした人はいないんですからねえ。

 じつは弁蔵、御目付・神保中務から陰扶持を頂戴する直心影流の達人。提灯奉行はいわば仮の姿で、影の目付ともいうべき存在だ。本第2作では、舞台は駿河の国、神君家康公を祀る久能山東照宮に飛ぶ。なぜまた、御台様がそんなところへ? そもそも、どうやって千代田の御城を抜け出すの? 作者のアイデアが読者をファンタジーの世界に遊ばせてくれます。もちろん、読者の期待に違わず、またぞろ跳梁跋扈する闇の一族の野望を蹴散らし、見事、御台様を救うのですが、その直後、二人がお互いを想い合うシーンが堪らない。つい、頬がゆるんでしまう。

 今回、弁蔵に協力する、おっちょこちょいだが憎めない助っ人が登場するのですが、これがまたいい味を出しているので、是非ともご高覧のほど、伏してお願い申し上げます。

──『提灯奉行 一寸法師の怪』担当者より
 

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