◎編集者コラム◎ 『就職先はネジ屋です』上野 歩
◎編集者コラム◎
『就職先はネジ屋です』上野 歩
誰でも、働く以上はやりがいのある仕事をしたいと思っていることでしょう。自分のやりたい仕事は何なのかを真剣に考えている就活中の大学生をはじめ、若い社会人にオススメの文庫オリジナル小説です。
主人公のユウは就職活動中の女子学生。海外で働きたいという希望を持って挑んだ第一志望の商社に、最終面接で落とされてしまいます。そして、実家のミツワネジが社員募集をしていることを知りエントリーします。ミツワネジがフィリピン支社を持っていたことが志望動機になりました。社長である母親との最終面接で、「当社の社長に就くとしたら、どんな社長になりますか」と聞かれたユウ。会社の求める答えでなく、自分の思うままを述べたユウは合格し、ミツワネジの社員となりました。
研修を終え営業に配属されたユウでしたが、取引先はネジを扱っている顔なじみの商社ばかりでした。研修先の長谷川螺子兄弟社の社長・長谷川に言われた、「新しいネジを提案するようなネジ屋になってほしい」という言葉を実現させたくなったユウは、飛び込みでメーカーを回るが、相手にしてもらえません。ある日ユウは、荒川の河川敷で消波ブロックの製作現場を見ます。消波ブロックの型枠は、いくつかの金属のピースをボルトでとめて組んでいました。「もっと簡単に締まるボルトがあれば」という呟きに、ユウが動き出します。
幾度もしがらみと闘いながら、業界のスペシャリストとともに新しいネジの開発に携わっていきます。本書に登場するのは、スポーツサイクルの組み立てネジ、崖の安全ネットをとめるネジ、地下鉄のロングレールをつなぎとめるネジ、脆くなった人骨をつなぎとめるネジ、海底に橋脚をネジどめする巨大ボルト。
解説の中で華恵さん(モデル・エッセイスト)は、「ユウは、職種も違うし、同期でもない。でも、同志になりたい」と書いてくださいました。
この世に流通しているネジの種類は、数十万に上るといわれます。社会のさまざまな所で私たちを守ってくれているネジ。ネジと真剣に向き合い、こんなにも熱く働く人たちがいるなんて。「モノづくりって楽しい!」と思えるお仕事小説です。