◎編集者コラム◎ 『口中医桂助事件帖 さくら坂の未来へ』和田はつ子

 ◎編集者コラム◎

『口中医桂助事件帖 さくら坂の未来へ』和田はつ子


編集者コラム 

 二〇〇五年に『口中医桂助事件帖 南天うさぎ』で始まったこのシリーズも、今作で完結となりました。最終巻では文芸評論家の菊池仁さんが、解説の中で「口中医桂助事件帖」シリーズの魅力を分析してくださいました。

 二十年あまりに亘って文庫書き下ろし時代小説シリーズを読み続けてきた菊池さんによれば、〈ヒットするかどうかは第一巻の完成度の高さいかんにかかっている〉と言います。そして、第一巻「南天うさぎ」を三つの点で高く評価されています。和田さんは時代小説の一作目となる『藩医 宮坂涼庵』を刊行後、江戸時代の医師ものには多くの可能性が残されていることを確信し、初めての文庫書き下ろしを小学館文庫で始めるにあたって、医師ものを選択しました。その職業を、時代小説では初の試みとなる歯科医に設定しました。そして、取材を通じて得た江戸の歯科に関する知識を背景に、当時の歯科治療の詳細や、薬草、房楊枝の種類などをディテールに飛んだ描写で綴っています。

 次に、主人公の藤屋桂助の人物造形と人間的魅力を挙げています。容姿端麗にして"人品卑しからざる人"なのです。桂助の仲間として志保と鋼次を登場させ、次々と起きる難事件を三人が解決しつつ友情と恋を育んでいくという構成になっています。志保と桂助の恋の行方に関しては、最終巻「さくら坂の未来へ」まで判りません。

 第三は、御側用人・岸田正二郎と桂助の妹・お房の夫となる岩田屋勘三を登場させることで、その後の物語の伏線を巧みに作っています。

 菊池さんは結びの言葉として、〈作者が『南天うさぎ』で仕掛けた布石と伏線は、巻を追うごとに絶大な効果をもたらし、群像劇としての面白さと、家族、友人、敵の人生ドラマを包含した大河小説的広がりを見せ、読後の充実感を演出した。幕末という時代相を、フィクションを絶妙な配合で織り込むことで、リアルでありながら躍動感溢れる筆致で切り取った本シリーズは、間違いなく時代小説史上に残る傑作である〉と絶賛して下さいました。

 さて、「さくら坂の未来へ」では、桂助は横浜の居留地で最新の欧米の歯科治療を目の当たりにします。エーテル麻酔で痛みを感じさせずに、機械で虫歯を取り除いていました。そして、歯科医のウエストレーキとの対話で、日本の木床義歯の優秀さにも気づいた桂助。

 なるべく抜歯しない治療をしたいと願う桂助は、新たな決意をします。

 長年応援して下さった読者の皆様に、担当者からも御礼申し上げたいと思います。どうも、ありがとうございました。

──『口中医桂助事件帖 さくら坂の未来へ』担当者より
 

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