◎編集者コラム◎ 『サムのこと 猿に会う』西 加奈子
◎編集者コラム◎
『サムのこと 猿に会う』西 加奈子
「サラバ!」で第152回直木賞を受賞した西加奈子さんのデビュー作「あおい」に併録されていた「サムのこと」は、まだ西さんが大阪にいたときに書かれた短編です。
2003年ころに、「あおい」と「サムのこと」の二編を引っ提げて、西さんは上京されました。
当時は、作家デビューもなにも決まっていないなか、それまでの環境を変えようとしてのいきなりの東京暮らし。
そんなある日、知り合いの方からの紹介で、担当編集の私が読ませてもらったのが、この二編でした。
野球の喩えで恐縮ですが、直球とカーブが投げられる人なんじゃないのか、数多いらっしゃる女性作家たちのなかで十分に互することのできる書き手なのではないか、と思い、お声がけをしたのが最初でした。
いろんな意味で、当時の自分にしか書けないもの。
十余年の歳月を経て、当時を振り返る西さんの言葉です。
久しぶりに本作の校正のために読んだ「サムのこと」は、眩しくて、目を細めてしまいそうになるものだったようです。
人間の細胞は数年間ですべて入れ替わるといわれるなか、十数年前の自分が書き記したものを時を経て読む経験は、うまくいえませんが、どこか過去の自分という他人が書いたものを読むようなところもあるのではないでしょうか(私には想像するしかありませんが)。
そんな初期の西さんの短編たちが、乃木坂46の4期生のみなさんの出演ドラマ原作として、このたび、ひとつの短編集に編まれて命を与えられました。
(三編のうち、「サムのこと」「猿に会う」がそれぞれ原作になります)
小説は、読んだ時の年齢やシチュエーションで、読み手にさまざまな顔を見せてくれるともいわれています。
過去に読んだことのある方も、ない方も、ぜひ、この機会に手に取っていただけると幸いです。
書店店頭で、本文と全く関係がない西さんが描いた、睨みをきかせた猫の絵と目があったら、ぜひ、おうちに連れて帰ってあげてください。
──『サムのこと 猿に会う』担当者より