週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.153 宮脇書店青森店 大竹真奈美さん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 宮脇書店青森店 大竹真奈美さん

古本食堂 新装開店

『古本食堂 新装開店』
原田ひ香
角川春樹事務所

 お客様からの「あの、すみません」というお声がけは、脳内で「さて、問題です」と変換される。時にお問い合わせはクイズのようだ。
 ヒントはまちまち。テレビで紹介していた。新聞の広告欄に載っていた。徐々に明かされていく表紙の特徴。絶妙なニュアンスで記憶が胸をかすめるような、うろ覚えのタイトル。「先月、ここにあったんですけど」という指差しスタイルまで様々だ。
 クイズは難問であればあるほど、正解する喜びは大きい。お求めの本を無事手渡し、お客様の笑顔を見られる嬉しさには大きな達成感がある。

 ただ、何が正解か一概には言えないものもある。「気分を変えたい時、何かオススメはありますか?」といった漠然とした問いにはどうしても身構えがちだ。
 お目当ての本を探し当てるのと、解決策や処方箋のように本をセレクトするのとでは、勝手が違うからだ。

 人と本とが出合う場所。本を扱う現場として、この物語にも本を探し出したり選書したりするシーンがある。
古本食堂』は、神保町のとある古書店を舞台とした、温かな人間模様を織りなす物語だ。本作はその続編にあたる。
 古書店主・滋郎の急逝により、帯広から上京し、突然店を引き継ぐこととなった妹の珊瑚。その親戚である大学院生・美希喜も店を手伝うことになり、その周りの人たちとの人間ドラマが展開されていくストーリー。

 本作は『古本食堂 新装開店』ということで、話せる本屋というコンセプトのもと、古書店の一部を改装して喫茶コーナーを作ろうと動き出し、お客様とお話をしてその人に合った本を選ぶという「本付きコーヒー」というメニューを考案する。お客様のためにひとつの提案として本を選書するということが、気軽に提供されているのがいい。
「こんな時、何を読むか」というのは「こんな時、何を食べるか」というのに似ているのかもしれない。たとえそれで足りない栄養が全て補えなくても、その時美味しく味わえて「ごちそうさま」とお腹がふくらんだら、何かしらの栄養を補給できて、それはそれでいいのかもしれない。

 珊瑚さんと美希喜ちゃん、そして周りの人たちとの交流は、素敵に時間を巡る。この大好きな空間が続いていくことを願ってやまない。その先の未来にもページを重ねていってほしい。
 そしてなんといってもこのシリーズは、本の面白さ、美味しそうなグルメが魅力的だ。本もグルメも、どれもこれも実在するのが心躍る。本好きの食いしん坊さんは、心もお腹も満たすべく、すぐにでも神保町へとトリップしたくなる、そんな魅力満載の一冊だ。
 さらなる続編を心待ちに神保町を聖地巡礼できたら、こんなに美味しい読書ライフはないだろう。

  

あわせて読みたい本

万葉と沙羅

『万葉と沙羅』
中江有里
文春文庫

 登校拒否だった沙羅が入学した通信制高校で、幼馴染だった万葉に再会する。沙羅は読書好きの万葉の元へ、家兼バイト先の下北沢の小さな古書店へと通い、読書をするようになる。人は読書をしながら本に栞を挟むように、自分の居場所を見出したり、現在地からの視点で物事を考察したりしているのかもしれない。ひとりで居て、ひとりじゃない場所。そんな本を通して、言葉の色や重みをそれぞれ感じながら繋がりあっているふたりがとても良い。

 

おすすめの小学館文庫

『サムのこと 猿に会う』

『サムのこと 猿に会う』
西 加奈子
小学館文庫

 友達と過ごす日常の中で、ふと降り立つ非日常的な時間。現実として流れ出る感情が、未来へ沁み入るように広がっていく。そんな人生への滴りを感じるような、西加奈子さん初期の短編3作を収録。ラストの「泣く女」は、小説『津軽』をガイドブックに、太宰治の軌跡を辿る男子高校生を描いた短編。津軽海峡や竜飛岬など、個人的に馴染みのある地が舞台となっていることもあり、唯一タイトルに含まれていないが、思い入れのある推し作品。

大竹真奈美(おおたけ・まなみ)
書店員の傍ら、小学校で読み聞かせ、図書ボランティア活動をしています。余生と積読の比率が気がかり。


◎編集者コラム◎ 『ブレグジットの日に少女は死んだ』イライザ・クラーク 訳/満園真木
萩原ゆか「よう、サボロー」第57回